真面目で、貪欲で、後輩思い。そんな人だから昨季の日本シリーズで敗れた責任を背負い込んだ。なぜあのとき、力を発揮できなかったのか――。そう思い悩む中で辿り着いた、新たな境地がある。
 発売中のNumber1141号に掲載の[18打数1安打からの逆襲]大山悠輔「苦悩する幸せをかみしめて」より内容を一部抜粋してお届けします。

『栄光のバックホーム』を目に焼きつけて

 男は帽子を目深にかぶり直した。寒風吹きすさぶ駐車スペースに背を向けると、大型ショッピングモール内の通路を速足で進み始めた。

 季節は年の瀬。あと数十時間で2025年が終わる慌ただしさも相まって、急ぎ足の買い物客は皆、大柄な地元球団の人気選手に気付かない。滅多にないノーマークの環境にも助けられ、意外なほどすんなりと目的地の映画館に到着した。

『栄光のバックホーム』

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 タイトルを確認すると、上映開始時間ぎりぎりのタイミングで館内に足を踏み入れた。帽子のつばを下げたまま、最後方の一番端へ。最も目立たない特等席に体を沈め、135分間、元チームメートの短すぎた人生を目に焼きつけた。

「一緒にプレーした時間はほとんどなかったんですけど、ちょっとの間でも横田と一緒にユニホームを着てグラウンドに立てた事実は変わらない。僕の中でそこが薄れることはないので」

 映画の主人公、元阪神の横田慎太郎は大山悠輔にとって1歳下の“先輩”だった。2017年2月、プロ1年目の大山が初めて参加した沖縄・宜野座キャンプの途中に横田の脳腫瘍が判明。壮絶なリハビリを戦い抜いた末、2023年7月18日、28歳の若さで天国へ旅立った。

わずか3年間の思い出

 2人が同じ空間で汗を流した時間は実質、沖縄での10日ほどしかない。一方で独身寮「虎風荘」の自室が同じ階にあったこともあり、横田が2019年限りで現役を引退するまでの3年弱、フロアですれ違うたびに冗談を飛ばし合う仲でもあった。

 思い出を挙げたらキリがない。

 一緒に過ごした最初で最後のキャンプでは、猛練習と気疲れから食事会場で箸が進まない姿を笑いに変えてもらった。

「大山さん、全然食べてないじゃないですか! パワプロだったら『食欲G』の評価になっちゃいますよ!」

 人気野球ゲームの「S」から「A」「B」「C」と続く能力値のランク付けに例えて、寡黙な大卒ルーキーをなんとか輪に溶け込ませようと腐心してくれた。それからしばらく仲間から「G」の愛称で呼ばれ続けた日々のことを思い返すと、大山は今でも自然と微笑んでしまう。

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