2026/05/17 NEW

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石塚 隆

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写真:編集部




横浜DeNAベイスターズの古市尊

 FA移籍の“人的補償”という形で、横浜DeNAベイスターズへ加入した古市尊。突然の移籍となった若き捕手は、その環境変化をどう受け止めているのだろうか。DeNAのファーム施設「DOCK OF BAYSTARS YOKOSUKA」で、新天地での日々や捕手としての現在地について聞いた。(取材・文:石塚隆)

 

プロフィール:古市尊

2002年生まれ、香川県出身。高松南高を卒業後、独立リーグの徳島インディゴソックスで1年間プレー。その後に2021年育成選手ドラフト1位で西武に入団し、プロ2年目の4月に支配下契約を勝ち取った。今年1月には、桑原将志の人的補償でDeNAに移籍している。

 

「FAとは縁があるみたいで」古市のプロ野球人生
横浜DeNAベイスターズの古市尊

横浜DeNAベイスターズの古市尊(写真:編集部)

 

 
 なにが起こるか分からないのが“人生”であり、ましてや“プロ野球人生”は、いつどんな出来事が自身を襲うのか予測もつかない。
 
 今シーズン、埼玉西武ライオンズへFAで移籍した桑原将志の人的補償で、横浜DeNAベイスターズに入団した捕手の古市尊は、不思議そうな表情を見せ、その心境を語る。
 
 「僕のプロ野球人生はFAで結構動いているなって気がするんです。今回の桑原選手の件もそうですけど、西武時代の2022年のオフに森友哉さんがFAで移籍して、育成から支配下になり、一軍でプレーするチャンスを得たんです。いろいろFAとは縁があるみたいで……」
 
 “主役”ではないが、古市のプロ野球人生が期せずしてFAによって変容しているのは間違いない。そんな自分のプロ野球人生をどう思いますか、と尋ねると、古市は目を輝かせて言った。
 
 「いや、プラスになっているし、いい方向に行っているんじゃないかと実感しています。パ・リーグとセ・リーグの両方を経験できるのはキャッチャーをやっていく上では大きいですし、自分としてはポジティブに捉えているんです」
 
 はっきりと古市はそう言い、その声色にはやる気がにじみ出ていた。

 

「僕ですか?本当ですか?」自身も予想外だった移籍劇
横浜DeNAベイスターズの古市尊

横浜DeNAベイスターズの古市尊【写真:産経新聞社】

 

 
 両球団から古市の移籍が発表されたのは、年も明けた1月8日だった。前日に西武の関係者から連絡をもらった際に知ったという。古市にとってみれば、寝耳に水の出来事だった。
 
 「いや、絶対にないなと思っていたんです。チームメイトとはピッチャーだろうなと話していました」
 
 たしかにDeNAは、前年主力だった外国人投手が抜けるなど投手陣の再編成を余儀なくされていたために、メディアの予想も投手が有力だった。
 
 「だから聞いたときは、僕ですか? 本当ですか?って聞き返したぐらいです。あのキャッチャー陣に入っていくのかって思いましたね」
 
 2025年のDeNAの一軍捕手陣は、山本祐大(現・ソフトバンク)を中心に若手の松尾汐恩、ベテランの戸柱恭孝という具合に盤石の体制を築いていた。
 
 ただ今季でプロ5年目となる23歳の古市は、肩の強さを兼ね備えたスローイングや守備力には定評がある。また、昨季はファームで40試合に出場し打率.276を残すなど、将来性豊かな選手であることは間違いなかった。捕手という特殊で重要なポジションということを鑑みれば、DeNAのチョイスは建設的だったといえる。
 
 再びFAの渦中に巻き込まれた古市だったが、前述したように、求められたがゆえの出来事であり、前向きにこの状況を捉えることができた。
 
 「だから切り替えは早かったですし、ここはもう割り切るしかないという感じでしたね」
 
 DeNAに来ると、長谷川竜也編成部長から言われた言葉がハートに突き刺さった。
 
 「ものすごく守備を評価していただいて、驚いたんです。ここまで守備は一番大事にしてきたものでしたし、うれしかったですね」
 
 いざ、新天地での戦い。しかし、その前に胸に去来したのは古巣である西武への想いだ。
 
 「4年間、ここまで育ててもらいました。育成で入団して、支配下にも登録していただき、一軍も経験させてもらい本当に感謝しきれないですね。またファンの方々にもいつも応援してもらい力をもらったので、お礼を伝えたいです」
 
 さて過去、主にイースタン・リーグであるがDeNAと対戦してきて、果たしてどのような印象を持っていたのだろうか。
 
 「長打を打てるバッターが多い印象で、キャッチャーとしては嫌なチームでしたし、実際ベイスターズでプレーをしても、その印象は変わりません。それに……」
 
 そう言うと、古市は目に光を宿しつづけた。

 

DeNAに来て広がる“新たな引き出し”
ブルペンで山崎康晃(左)と話すDeNA・古市尊

ブルペンで山崎康晃(左)と話すDeNA・古市尊【写真:産経新聞社】

 

 
 「ピッチャー陣もすごくいいんです。以前からいいボールを投げるピッチャーが多いなというイメージはあったのですが、受けていて楽しいなと感じるピッチャーがたくさんいるんです。またバッテリーを組んで、向こうから『ここどう?』みたいな感じで普通に聞いてきてくれるので、コミュニケーションを取る意味でも、すごくやりやすさを感じていますね」
 
 楽しさはあるが、新しいチームゆえにあらゆることが白紙の状態。今季、怪我から復帰した松本隆之介が登板をした際「古市が過去の映像をすべて見てくれて、いいリードしてくれました」と語っていたが、当然インプットの時間は多くなる。古市は「キャッチャーにとっては当たり前のこと。そこは疎かにできません」と、当然だという表情で言った。
 
 「まだ特性が分からないピッチャーが多いなか、やはりいいときと悪いときの傾向を知らないと、打たれ出したら止められませんし、また僕がいい状態なのを止めてしまう可能性があります。そこに関しては過去映像を全部見た方が対策を立てやすいですし、地道な作業ではあるのですが、コミュニケーションも含め、そこは西武時代よりも意識してやっていますね」
 
 また西武時代、古市はリード面に関して注力していたというが、リーグが変わったことで配球においてなにか違った考えを持ったりするものなのだろうか。
 
 「それは確かにありますね。リーグの違いもあるのでしょうが、今までの発想にない配球だったり、攻め方をするんだと感じて新鮮ですね。また、逆にこっちがもっとここをこうしたいと伝えると『新しいね』と言ってもらえることが多いんです。ですから僕の引き出しも増えているし、ピッチャーの方々も新たな一面が少しずつ広がっているのかなと感じています」
 
 セ・リーグとパ・リーグのハイブリッド。投手の能力をフル活用する、古市のリードの熟成に期待したい。
 
 「首脳陣の方々から『面白い配球をするね』と言われるので、そこは自分のよさとして生かしていきたいですね」
 
 これに加え、辻俊哉ファームバッテリー戦術・育成コーチからも新たな教えを授かっている。

 

新天地でまず目指すのは「捕手のクローザー」
横浜DeNAベイスターズの古市尊

横浜DeNAベイスターズの古市尊【写真:編集部】

 

 
 「僕は守備の人間だと思っているので、辻コーチには主にメカニックの部分を指導していただいています。身体の動きの新たな気づきなどもあり、意識して取り組むようになりました。身体の使い方についても、これまで以上に引き出しが増えたと思います」
 
 環境を変えたことで、これまでにはなかった視点で、確実に捕手として古市は成長していることを実感している。
 
 また古市は西武時代、一軍ではゲーム途中や終盤という難しい場面でマスクを任されることが多かった。それを持ち味だと自認し、DeNAにおいても一軍への布石になればと考えている。
 
 「やはり僕は守備キャラなので、将来一軍で行くということになったら、スタメンはもちろん狙っていきますが、後半の守備というのが絶対条件になってくると思います。普段から最後1点差で守ることを想定しながらファームではベンチからはもちろん、一軍の試合をチェックしています」
 
 守備力と肩を生かし、まずは捕手のクローザーを目指す。しかし、その役割と責任は非常に重く、投手同様メンタル・技術において難儀であることは間違いない。
 
 「もちろん1点もあげられないシビアな場面ですし、通常とは違う難しさはあります。けど、その役割を勝ち取ることができれば、今後長くプレーできると考えていますし、信頼されれば本当にいいポジションだと思うので、頑張るしかないですね」
 
 捕手としてどのように生きるのか。FAの渦中に巻き込まれながらも、自分の生きる道を模索する古市。後編では、そんな彼の生い立ちや人間性について触れていきたい。
 
(取材・文:石塚隆)
 
【著者プロフィール】
石塚 隆 (いしづか・たかし)
1972年、神奈川県出身。フリーランスライター。プロ野球などのスポーツを中心に、社会モノやサブカルチャーなど多ジャンルにわたり執筆。web Sportiva/週刊プレイボーイ/週刊ベースボール/集英社オンライン/文春野球/ベースボールチャンネル/etc…。現在Number Webにて横浜DeNAベイスターズコラム『ハマ街ダイアリー』連載中。趣味はサーフィン&トレイルランニング。鎌倉市在住
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【動画】
古巣相手に豪快弾!古市尊、ファーム第1号がこちら


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