連載:監督として生きる

川浪康太郎

2026/01/22

(最終更新:2026/01/22)

#東北学院大学

#監督として生きる

2023年から母校の東北学院大学を率いる星孝典監督(すべて撮影・川浪康太郎)

キーワードは「ノリと勢い」――。今回の連載「監督として生きる」は、東北学院大学硬式野球部の星孝典監督(43)です。読売ジャイアンツと埼玉西武ライオンズで捕手として計12年間プレーしたのち、プロ野球でコーチを務め、2023年から母校の監督に。就任3年目の昨年は、仙台六大学野球秋季リーグ戦で7年ぶりの準優勝を果たすなどチームを飛躍させました。3回連載の前編は、指揮官自身が生み出した「キーワード」についてです。

「試合になるとやるやん」思い出したライバルの言葉

昨年、星監督や東北学院大の選手たちは、取材中に「ノリと勢い」という言葉を何度も口にした。ありきたりに聞こえるかもしれないが、実際に掲げたテーマを体現し、結果につなげられるチームはそう多くない。そして「共通言語」を持つチームは強い。

「2024年の夏ごろから『ノリと勢い』という言葉を使い始めました。私の大学時代のことを思い出したのがきっかけです。当時、優勝争いをしていた東北福祉大学の主将だった塩川達也さん(現・東北楽天ゴールデンイーグルスヘッドコーチ)と話している時に、『(東北学院大の選手は)普段ヘラヘラ、チャラチャラしているのに試合になるとやるやん。やりづらいわ』と言われたのを思い出しました」

約20年前、星監督や2学年下の岸孝之(現・楽天)を擁する東北学院大は、圧倒的な強さを誇る東北福祉大に食らいついていた。同学年で主将同士だった塩川はライバルでありながら、試合前などにはよく会話を交わす仲だった。星監督は続ける。

「選手の能力を考えると、がっぷり四つで戦っても負けるんですよ。でも、ガチっとハマった時に爆発力があれば相手にとって脅威になる。『不真面目な優等生』というか、負ける怖さを知らずに立ち向かってくるのって嫌じゃないですか。戦ったら嫌だなと思わせるのは何かと考えた時に出た言葉が、『ノリと勢い』でした」

東北福祉大学から勝ち点を挙げ、喜びを爆発させる選手たち

夏のオープン戦を倍増、実戦の中で見えてきた兆し

では、「ノリと勢い」をどう体現するか。星監督は選手に具体的な指示をしたわけではない。なかなか答えが見つからない中、昨夏、足がかりを得た。

秋季リーグ戦前のオープン戦を例年の倍ほどに増やし、8月はBチームも含めるとほぼ毎日実戦を行った。高校や東北学院大の準硬式野球部など、普段対戦する機会のないカテゴリーとのオープン戦も組んだ。そもそもの目的はアピールの場を平等に与え、部内競争を活発化させること。実際、星監督は目に見える結果だけでなく、試合中の振る舞いや試合前後の準備、調整といった数値化できない「チームへの貢献度」にも着目しながらメンバーを選んだ。一方で、ある気づきもあった。

「『ノリと勢い』のリアリティーを練習の中で出せなかったのは反省点ですが、実戦で『1点を取る』『1点を守る』という中でチームの良さが見えてきたんです。元気な選手が多いので、急に盛り上がったり、ピンチを抑えた時やチャンスを作った時にスタンドも一体となってお祭り騒ぎになったりする。そういう雰囲気で戦えたら相手にとって嫌なのではないかなと」

主将の田村虎河(4年、駒大苫小牧)を中心に、「1点」で盛り上がれるチームカラーが浮かび上がってきた。直近6年間、東北福祉大と仙台大学の「2強」の後塵(こうじん)を拝し続けた東北学院大に、光が差した。

共通言語を示したことで、チームに「1点」で盛り上がれる雰囲気が出てきた

強敵の好投手を苦しめた「2ストライクアプローチ」

昨年の秋季リーグ戦では仙台大、そして全日本大学野球選手権で日本一に輝いた東北福祉大から勝ち点を奪った。両校の選手は口々に「守っていて嫌だった」「きつい試合だった」と東北学院大の印象を語った。まさに星監督の狙い通りだ。

もちろん「雰囲気」だけでは勝てない。技術、戦略の面でも「いやらしさ」は垣間見えた。その最たる例が粘り強い打線。追い込まれてから粘って安打や四球で出塁する「2ストライクアプローチ」を各打者が実践し、これに東北福祉大の櫻井頼之介(4年、聖カタリナ学園)や猪俣駿太(3年、明秀日立)ら全国レベルの好投手も苦しまされた。リーグ2位のチーム打率2割7分6厘という数字以上に怖さを感じさせる打線だった。

以前から「2ストライク後は変化球をマークしてストレートに対応できるようにしよう」と試みていたが、昨年ほど粘り強い攻撃には選手たちが自力でたどり着いた。星監督は「彼らすごいですよね。ベンチにいて不思議でした。なかなかうまくいかなかったことがいつの間にかできるようになって、ある意味ゾーンに入っていた。選手たちがどうすればいやらしい攻撃ができるか考えた結果です」と話す。

星監督は開幕節の宮城教育大学戦で「チームがさらに加速する」予感がしたという。開幕戦では春の新人戦まで出番がなく、夏に台頭した佐藤辿柊(1年、学法石川)が初出場で2安打3打点をマーク。開幕2戦目では「Bチーム代表」の自覚を持つ山田将生(4年、東北学院)が4年春にして待望の初安打を放った。「みんな『すげえ』と思いながらも『自分も負けられない』となったはず。火がついたのはあそこからです」。夏以降、さまざまなきっかけが重なり、「旋風」は巻き起こった。

東北学院大・山田将生 4年秋に初安打で涙、限界の先に巡ってきた「最高の1打席」

昨夏に台頭してきた1年生の佐藤辿柊

「勝てる組織」を作るため、時間をかけて紡ぐ伝統

とはいえ、仙台大、東北福祉大から勝ち点を奪った後の東北大学戦では連敗を喫し、届きかけていた13年ぶりの優勝は逃した。まだまだ課題は残る。また昨年のチームの核を担った4年生が抜け、チーム作りは一度振り出しに戻る。

「私の指導歴が浅いこともあって、うちにはまだ『伝統』がない。伝統のある強い大学は、指導者が何も言わなくとも、先輩から後輩に自然と『暗黙の了解』や『基準』が受け継がれる。『東北学院大硬式野球部とはこういうものだ』というのが、言葉にしなくとも回っていくのが理想です。私自身、果たしてこの伝え方でうまく伝わっているのかと不安ですし、確信めいたものはありませんが、浸透させるために根気強く伝えています」

その「伝統」が昨年かたちになった「ノリと勢い」なのか、はたまた別のものなのか、まだ分からない。ただ、目的は変わらない。「勝てる組織を作りたい。優勝したいのではなく、優勝できるチームを作りたい。そのための『伝統』が必要なんです」

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中編は23日に公開予定です。

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