「野球×AI」。社会全体でも活用の機運が高まるAIを先進的に活用するDeNAの小杉陽太投手コーチ(39)が現状の活用法と…

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「野球×AI」。社会全体でも活用の機運が高まるAIを先進的に活用するDeNAの小杉陽太投手コーチ(39)が現状の活用法と未来への可能性を語った。今季はAIチームを含めた定例ミーティングで制球力を測る「コマンド」を可視化するなど、投手陣の状態の把握やピッチデザイン(投球や球種の組み立て)など幅広く活用。今後の野球界における導入の課題と可能性と未来とは。【取材・構成=小早川宗一郎】

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野球界におけるAI活用が本格稼働している。投手陣の運用や状態の把握で活用する小杉コーチは言う。

「実際、僕らがAI活用しているのはコマンドについてです。それをAIチームが計測可能にしてくれた。それ以外のプロダクト活用はトップシークレットで言えないんですけど」

大きな変化は、制球を測る指標である「コマンド(狙ったスポットに投げる能力)」の部分だった。今までは「コントロールがいい」という投手の定義があいまいで正確な指標がなかった。四球が少なかったらコントロールがいいとされることもあったが、それだと逆球や真ん中への失投と、狙い通りの外角低めも変わらない。そのため、捕手の構えたミットと実際のボールを捕球した位置との距離からAIで「コマンド力」を数値化することにした。これまで曖昧だった「感覚」が可視化され、具体的な指標として機能し始めている。

「ぼんやりしていたものがちゃんとAI活用によって言語化されたイメージです。どの球種がコマンドがいいのかが鮮明に分かる。選手の今の状態や精度を地図アプリのような形で活用しています。例えば宮城自身はなぜうまくいっているのか? という問いに対しての解像度が上がり、本人もあのインプットがあってクリアになったと。(石田)裕太郎もその1人です。藤浪も興味を持ってくれています。他の投手も積極的にAIチームの人とコミュニケーションをとってくれているので徐々に浸透してきたという感じです」

さらに組織としてではなくとも、個人として選手たちのピッチデザイン(投球や球種の組み立て)を考える上でも助けになっている。

「完全に趣味の範囲でしたが、その範囲を超えて、いけるかもしれない、という手応えは結構ありました。例えば、とある投手のフォークをもう少し改善したいという時、元々の知識としてイメージはあるのですが、かゆい所に手が届く存在として活用しています。どういう握りで回転数はどれぐらいで、回転の軸はどれぐらい、ジャイロ回転なのかサイドスピンがいいのかを提案してもらったり。フォーシームが真っスラ気味だからジャイロの方が…という使い方をしたりしてます」

17年オフに現役引退後、起業してさまざまなビジネス界の人々と交流する中で、スポーツへのAIの可能性に胸を高鳴らせた。

「スポーツ業界でも広がっていったら面白いだろうし、広がるだろうなと。その可能性にはワクワクしました」

本格的に運用が加速したのは今年に入ってから。DeNA南場オーナーは2月、世間に向けて「AIにオールインする」と発信した。グループ会社のベイスターズも例外ではない。

「Slack(コミュニケーションアプリ)で1000人以上の社内メンバーがいるAI専門のチャンネルに招待していただきました。いろいろな情報が飛び交っているので、そこで専門用語だったり、活用法だったりを学ばせてもらっています」

昨年からは本社からAIチームのエンジニアなど、専門家が横浜スタジアムをたびたび訪問。プロダクトの中からスポーツの現場で使えるような形に仕上げるために話し合いを行ってきた。2月からはGoogle社の「Gemini Advanced」が使えるようになった。

「去年の年末くらいに、AIチームとの定例ミーティングを定期的にやりたいとリクエストしたら、快く受け入れていただいて。今季の開幕からは週1でAI定例ミーティングをやってます」

ミーティングで話し合う内容は多岐にわたる。当初は投手コーチとAIエンジニアとデータサイエンティストらのみのミーティングだったが、シーズン途中からは三浦監督も同席。投手の状態や課題を話し合う場となっている。

「直近1週間で投げた投手の振り返りと進捗(しんちょく)をみんなで確認して、もう少しこの変化球をこういう変化にした方がいいんじゃないかとか、元々シュート成分が多いストレートなのに、それが減ってきているからリリースポイントを確認しましょうとか」

そこにpitching+(ピッチングプラス)とstuff+(スタッフプラス)という指標も加えながらアプローチする。ピッチングプラスとは、ロケーション(投げる場所)、カウント、右打者左打者などの要素から導き出されるもので、主にロケーションを中心とした投球などのトラッキングデータから選手の評価をするもの。

一方でスタッフプラスとは球種ごとの「球の質」を評価する指標で、球速や縦横の変化量などいくつかの変数から算出される。

「1軍平均の数字を50に設定していますが、それを満たさなくても活躍している投手はいますし、両方いい投手も、どちらかがいい投手もいる。特徴を測る上で使ってます。例えばある選手はフォークを使う割合は少ないけど、その球種のスタッフプラスが高いなら、もっと使う頻度を増やしてもいいかもねという議論をします。あとは選手から例えば『フォークの落差をもっと出したい』と言われた時にも役立ちます。スタッフプラスがいい場合には『課題はロケーションにあるから落差は変えなくてもいいと思うよ』というようなコミュニケーションの材料になります」

それらの先進的な指標もフル活用しながら、AI活用ともひも付けて解像度を上げていく。

「ピッチングプラスとスタッフプラスも加えながらピッチデザインやロケーションを少し変えてみてもいいんじゃないかという議論をストロングポイントを消さない前提に行っています」

ただし、大事なことを忘れてはいけない。AIを過信しすぎてはいけないということ。

「短期で改善されることも当然ありますが、魔法じゃないので長期的な視点が必要です。現状はAIが絶対ではないし、選手には感性がある。そこは扱っていく中で注意しなきゃいけないポイントかなと思います。疑いを持ちながら、現状のAIの限界をちゃんと理解することが大切だと思います」

あくまで日常の延長線上に、優秀なサポーターとして活用する。

「AIを活用してると新しいことをやってるみたいになりますけど、全然そんなことはない。今までの延長線上にAIがある。AIを使ってるけど勝てないからダメ、勝ってるからOKとかではなく、勝ち負けはコントロールできる部分ではないのでもっと長い目で見ていかないといけない。しっかりトータルで評価しないといけないと思います」

トラックマンやラプソードが各球団に急速に広まったように、AIも普及は時間の問題だという。導入のハードルはコストや人材だが、スマホやアプリで簡単に使えるサービスが広がれば、一気に裾野が広がる。

「AIは敵ではなく仲間として活用できるかどうか。選手のリテラシーも年々上がっている。今、取り組んでいることは、必ず未来のスタンダードになるはずです」

野球とAI。その融合はすでに始まっている。DeNAの現場から見える姿は、スポーツ界全体に迫る“未来”なのかもしれない。

◆小杉陽太(こすぎ・ようた)1985年(昭60)12月8日生まれ、東京都出身。二松学舎大付で02年春センバツ出場も、登板機会なし。亜大3年時に中退し、JR東日本を経て08年ドラフト5位で横浜入団。17年まで在籍し、通算86試合6勝9敗、防御率5・04。引退後はイベント会社の起業を経て、21年四国学院大コーチ就任。22年にDeNAにコーチで復帰し、24年から1軍投手担当。187センチ、80キロ。右投げ右打ち。

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