
試合後に高橋宏(手前)と抱き合う加藤匠
◇渋谷真コラム・龍の背に乗って
◇9日 中日2―0広島(バンテリンドームナゴヤ)
7回1死満塁。唯一にして最大のピンチでギアを上げたのは高橋宏だが、上げさせたのは捕手の加藤匠だった。1死から秋山の投前への打ち損なったゴロが、安打になった。ここで山井投手コーチはマウンドへ向かった。傷になる手前で間(ま)を取ったわけだが、前川につながれ、それまで2三振とタイミングが合っていなかったモンテロにストレートの四球を与えた。もう投手コーチはタイムを取れない。その時にマウンドへ向かったのが加藤匠だった。
そこからだ。しつこい矢野を154キロで追い込み、スプリットで一ゴロに。代打の小園も3球で追い込み、同じくスプリットで二ゴロに打ち取った。彼はわずかな時間で高橋宏にこう伝えたそうだ。
「ここはどうやって抑えるとか、こう投げようとかじゃないぞ。全部出し切れ! 自分の球を信じて投げてこい」
その言葉がエースの心に火を付けた。配球やブロッキングだけではない。捕手は言葉と態度でも投手をリードする。その典型のようなシーンだった。
なぜ加藤匠なのか。石伊は刺して、打って、本当によくやっている。ただ、痛恨の逆転3ラン、終盤の痛打に決勝の暴投…。彼に全責任があるわけではないが、新人捕手にはダメージが残る敗戦が増えている。心身の疲労を考慮して、週に1、2度の加藤匠。前回の高橋宏(2日、広島戦)での完封に始まって、7日(阪神戦)は金丸の初勝利をアシストした。この1週間で加藤匠が先発マスクをかぶれば、3戦3勝2完封。33歳の存在感は際立っている。
「僕が石伊のすごさを一番わかっていますよ。誰が見ても今は石伊。いいところを盗もうとしているし、もらえているチャンスで結果を残さないといけません」
そんな加藤匠に、高橋宏は「聞いといてください」と言い残して、お立ち台に走って行った。
「加藤さんのおかげで抑えることができました」。彼は聞いてはいなかった。僕が代わりにエースの感謝を伝えると、何とも言えぬ顔をした。捕手冥利(みょうり)に尽きるとはこのことだろう。

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