福岡ソフトバンクホークスが、従来の「鷹の祭典」から「鷹祭 SUMMER BOOST」に大きく衣替えして今季で2年目になる。「ドームを飛び出し、福岡のまちへ」をコンセプトに展開されたイベントは、福岡の街中でどう展開されたか。今季の目玉の一つとなった「飲食店コラボ」と、昨年に続いて催されている「鷹祭 SUMMER BOOST meets 天神夏まつり2025」。それぞれのキーマンに話を聞いた。



福岡の飲食店に広がった「カチドキレッド」


 ジーター・ダウンズや山本恵大の一発攻勢などもあり5-2で楽天を下した2日の試合。終了から約2時間後、串にグルグル巻き付ける「とりかわ」で知られる飲食店「竹乃屋 福岡空港店」に、60代の夫婦が立ち寄った。楽天戦は「鷹祭 SUMMER BOOST」の対象試合。みずほペイペイドームで配布された「カチドキレッド」のユニホームに袖を通したまま着席した夫婦は「1杯目のドリンク半額」の特典を手にした。「(みずほペイペイドームで)試合を見ながらビールを飲んだけど、家に帰る前に立ち寄りたくて」と夫婦でグラスを傾けた。



福岡市在住の夫婦「月に2度はドームに行っています」


 今回、福岡市内とその近郊自治体の飲食店245店舗では7月4日から8月3日まで大掛かりなキャンペーンを実施した(出店企業一覧は球団HPで紹介)。ソフトバンクのユニホームを着用して来店すると1杯目の飲料が半額になり、先着でオリジナルコースターを受け取れるという企画。対象店舗には「竹乃屋」のようなチェーン店もあるが、個人経営の飲食店もある。様々なプロモーション企画を行ってきたソフトバンクでも、ここまでの大規模な展開事例はほとんどない。


 球団と飲食店の橋渡しに奔走したのが、福岡県内の飲食事業者3,500近くが加盟する福岡県料飲業生活衛生組合連合会の会長で「竹乃屋」を運営する株式会社タケノの竹野孔(たけの・とおる)社長だ。「飲食店も、ホークスさんと一緒にこういったことができて、本当に喜んでいるんです」と語る。


 きっかけは「鷹祭 SUMMER BOOST」1年目の昨季、主に天神地区の屋台40店舗と球団がコラボした企画を行ったこと。「去年、組合員のお店の皆さんから『来年はうちでもできないか』という声を多くいただいた。確かに、ホークスのファンと、飲食店でビールを飲むお客さんとの親和性はもちろん高い。実現できたら面白いことになる」と、球団に持ちかけた。竹乃屋がみずほペイペイドームに以前から出店している縁もあり、話が進んだという。


 「福岡の街中で赤いユニホームを来た人を多く見かけて、その人たちが飲食店に入ってくれる。街が元気になりますよね。(7月1~15日の博多祇園)山笠が終わったあとに『鷹祭 SUMMER BOOST』があって、少し間を置いて放生会。みんなが街に出たい、と思ってくれないと外食産業は成り立たないですから。飲食業が元気でなければ、街は元気にならないよね」



福岡県料飲業生活衛生組合連合会 竹野会長


 飲食業界にとって新型コロナウイルス禍のダメージは大きく「福岡の中心部は、インバウンドもあってコロナ前を上回っている。ただ、中心部から少し離れたところでは、まだまだ前のようにはなっていない」という。今回球団から各店舗には、カチドキレッドのユニホーム数枚、告知用のタペストリー、オリジナルコースターの配布はあったが、「ドリンク半額」は店舗側の費用負担となる。それでも6月30日の決起集会には対象店舗の関係者が200人以上もみずほペイペイドームに集まり、この企画への期待の高さを示した。


 「今年が福岡市内とその近郊で245店、来年は福岡市内に限っても500店舗くらいには広げられるのではないか。北九州や県南、久留米の組合員さんからも『ぜひうちでもやりたい』という声をいただいている。逆に、今まで以上にホークスが身近になったおかげで応援にのめり込んだ飲食店さんもいらっしゃる」。竹野会長は今後の広がりに自信を見せた。


 「コラボの形が固まってから飲食店さんに呼びかけたから、参加の締め切りが短かったことは反省点。このコラボが終わったら、組合員さんからの声を聞いて、来年はどういう形で進めるか、すぐに詰めていきたい」と話す。「1年目から全部うまくいく、なんて考えていない。こういったことは何年も続けて、定着していったら本当の形になるもの。福岡の風物詩になった冬のクリスマスマーケットも、続けていることで、あれだけのお祭りとして定着したんですから」



盆踊りと野球観戦が融合


 8月2日。試合が終わり、すっかり日が暮れた福岡市中央区の天神地区に、リズムのいい和太鼓の音が響きDA PUMPの人気曲「USA」のサウンドが重なる。会場は福岡市役所西側ふれあい広場。中央にやぐらが立ち、その周りを音楽に合わせて参加者が回りながら踊る姿は、盆踊りそのもの。



会場の様子。盆踊りではDJの掛け声に合わせて動くと自然と踊れるようになる


 やぐらや出店の看板は「カチドキレッド」一色。入口には「鷹祭 SUMMER BOOST」と書かれた数多くの提灯が据えられ、周東佑京、栗原陵矢の大型パネルが掲げられている。会場の最奥には大型ビジョンで終わったばかり試合のハイライトが流れていた。これが「鷹祭 SUMMER BOOST meets 天神夏まつり2025」だ。「日本の夏の過ごし方の原風景、みたいなものじゃないかな。外では盆踊りをしていて、テレビからはプロ野球中継の音が聞こえてきて。福岡の街を盛り上げたい、という思いはホークスと同じなので。一緒に夏まつりができて、うれしいですね」。そう語るのは、株式会社サエキジャパンの佐伯岳大(さえき・たかひろ)社長。福岡に「クリスマスマーケット」を浸透させた仕掛け人だ。


 佐伯社長が「クリスマスマーケット」を初開催したのは2013年冬。今や日本有数のクリスマスマーケットとして知られるまでに成長させたが、その傍らで、「夏まつり」も作り上げていた。「福岡の街が山笠で盛り上がって、その後にもう一度盛り上がる、名物イベントをつくりたい」。先に始まったのは博多地区。メーンのコンセプトは「盆踊り」。人気のJポップなどで来場者は自然と体が動く。そこでノウハウを蓄積し、23年に「天神夏まつり」を初開催。17日間の開催で約12万人を動員した。その盛り上がりに目をつけたのがホークスだった。「鷹の祭典」から「鷹祭 SUMMER BOOST」に切り替えた際の新コンセプト「ドームを飛び出し、福岡のまちへ」に「天神夏まつり」はピッタリだった。



サエキジャパン 佐伯社長


 球団からコラボの相談を受けたところ、佐伯社長は快諾。初年度だった昨年は看板や会場スタッフが着用するTシャツが「レボリューションイエロー」になった。そして今年は「カチドキレッド」。期間は7月17~8月17日までとほぼ1ヶ月にも渡る。「鷹祭 SUMMER BOOST」直前の7月24日に行われた「前夜祭」では津森宥紀、松本晴、大山凌の3選手が参加。選手名はシークレットだったが、イベントには3,200人以上が集まった。球団がマーケティングの中で重視する「ホークスは知っているが、最近はホークスを目にしておらず球場に足を運んでいない」層の掘り起こしに直結している。


 「僕も野球を見て育ちましたから。平和台でダイエーの試合を見に行ったときに、岸川(勝也)選手のホームランを見たことを覚えています。実家の前が盆踊りの練習場で、古いスピーカーから音が割れて聞こえてきた。そういった景色がいま、ここにありますよね。盆踊りにもっとホークス色を出す、例えば『いざゆけ若鷹軍団』と盆踊りをどう融合させるか、という課題はあるけれど一緒に取り組んでいきたい。これからも日本一熱い夏を、ホークスと作っていきたい」。佐伯社長はそう語る。



街と球団が一体になり新たな「文化」になる


 竹野会長、佐伯社長に共通するのは、この「鷹祭 SUMMER BOOST」を博多祇園山笠から続く、福岡の夏の風物詩として続けていきたい、という思いだ。「鷹の祭典」が始まった2006年から今年で20年目。「鷹の祭典」は、選手と同じ色のユニホームをファンが着用しスタンドを一色に染めるという当時としては画期的なものだった。その雰囲気がきっかけになって定着したファン層も少なくないはず。


 ただ、続けていく企画に「慣れ」はつきもの。街なかに飛び出した「鷹祭 SUMMER BOOST」は、その舞台の大きさゆえに、タッグを組めるパートナーの数ゆえに、まだまだ伸びしろを持っているといえる。冒頭で紹介した60代の男性は「私は福岡からプロ野球チームがなくなった経験をしている。今はとても楽しい」と振り返った。プロ野球と飲食店、プロ野球と夏まつりの融合により、新しい「文化」が芽生え、広がっていく。福岡の夏は、毎年さらに熱くなるはずだ。(谷光太郎)

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