「メンタルがものすごく、ノミぐらいの心臓らしいんで……」。この新庄剛志監督の言葉が齋藤友貴哉の心を変えた。自分の弱さを認め、プレッシャーと向き合った齋藤は、監督のアドバイスでマウンドでのある「動き」を身につけ、堂々としたピッチングを見せるようになる。<全3回の2回目/3回目へ>
「ノミの心臓と言われているので…」
2022年11月、トレードで北海道日本ハムファイターズの一員になった齋藤友貴哉はカメラの前に立っていた。沖縄キャンプで本隊に合流して間もない頃、球団の公式YouTubeに新入団選手の自己紹介で登場すると、あっけらかんとこう話した。
「タイガースでノミの心臓と言われているので、どんどんノミから成長していければなと思います」
普通なら自ら口にするのも憚られる屈辱的なフレーズを、齋藤は自虐を交えながら、さらりと触れたのである。これにはいきさつがある。その直前の10月、宮崎で行われた入団会見の場で、隣にいた新庄が齋藤を評するなかで、こう言ったのだ。
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「噂によると、メンタルがものすごく、ノミぐらいの心臓らしいんで……」
齋藤は急所を突かれた。
だが、同時にこうも思ったという。
「監督がそう言っていて、そういうふうに自分のことを思っているのだと思うと、そうか、と。自分のことを認めよう、受け容れようと思えたんです」
人は理想を追い求めるなかで、時として現実とのギャップに戸惑って悩む。
齋藤もそうだった。タイガース時代、マウンドで我を失っては失敗ばかりを重ねた。
だが、入団会見で指揮官の言葉を聞いて吹っ切れた。プロ野球人生を仕切り直すチャンスなのだ。ちっぽけなプライドが消え、自分の弱さと向き合えるようになった。
24年を迎えると、右膝の重傷で出遅れた前年の鬱憤を晴らすかのように2月のキャンプから150kmを超える速球でアピールした。新庄の目に留まるまで、時間はかからなかった。
新天地デビュー戦でサヨナラ2ラン
5月1日のライオンズ戦で齋藤は新天地でのデビューを果たし、2年ぶりの一軍マウンドに立った。登板したのは1−1で迎えた9回だった。2死二塁で若林楽人にサヨナラ2ランを浴びた。
齋藤は前日の4月30日に一軍昇格したばかりだった。
故障明け。移籍デビュー戦。いろんな荷を背負っていたが、新庄はあえて緊迫した9回に投入した。だが、その用兵は無謀なものではなく、綿密に逆算されたものだった。3週間ほど前、齋藤が二軍で調整するなか、新庄から一軍昇格のメドを伝えられていた。そして、そのときから抑えで使うというメッセージも受け取っていたのだ。

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