ファイターズの球団経営【13回】
ファンを五感で魅了。時間×場所=ファイターズ流球場演出
2016/8/13
北海道日本ハムファイターズの試合が始まる数時間前、本拠地の札幌ドームが開場すると、誰もが聞き慣れた音楽が流れてくる。スターウォーズのテーマだ。来場者の頭の中では、自然とスペイシーな世界が連想される。
FIGHTERS GALAXY BASEBALL──。
コアファンだけでなくライトファンを魅了し、熱量ある球場の雰囲気でチームを後押しするため、今季のファイターズは「宇宙一を目指せ」をコンセプトとして掲げている。
球場に足を運んでくれたファンをいかに満足させ、再び来場してもらうか。ファイターズがそのためのキーワードと考えるのがコミュニケーションだ。事業統括本部の小崎将史氏が説明する。
「立ち上がって騒いで周りとハイタッチするなど、球場の雰囲気を人間の本能で感じ取ると体に染みつくと思います。ジャンプしたなとか、筋肉痛になったなとか、五感で楽しんでもらうために『体感スタジアム』と名付けました」
自らの顔出しボードでポーズを決める西川遥輝
ボードに貼られた選手の写真から顔だけを切り抜いた「顔出しボード」というものがある。観光地によくある、丸い切り抜きから顔を出して撮影できる看板のようなイメージだ。
ファイターズは顔出しボードを来場者に配布し、応援グッズとして楽しんでもらっている。そうしてファンとのコミュニケーションを深める一方、SNSに“ネタ”を投稿して思い出にしてほしいという狙いがある。
野球×エンタメで宇宙一を目指す
今年掲げる「宇宙」というテーマは、「ファイターズの職員=チームの熱心なファン」という原点に立ち返って生まれた。
「中田翔や大谷翔平の異次元のパワーや、超人的な肉体にはテレビや雑誌を通してでは絶対にわからないすごさがあると思いました。これはすごいな、近くで見てほしいなと思ったとき、宇宙のイメージがパッと浮かんだんです」
職員間で、札幌ドームの外観は宇宙船を想起させるという話が上がっていた。
宇宙船を連想させる札幌ドームの外観
もともと球団では、「世界のどのスポーツクラブにも負けないようなエンターテインメントを目指そう」という志がある。
そうして「野球×エンターテインメントの宇宙一を目指そう」とコンセプトが決まった。
試合前にもタッチポイント設置
テーマが決まれば、次にやるのはどうやって落とし込むか。その際、小崎氏が考えたのは「時間とロケーションの掛け合わせ」だった。
時間軸の試みとして、今年から「ギャラクシーベースボールショー」というプレゲームショーを始めている。試合開始25分前にシートノックが終わると、DJが現れて前日までの振り返りと当日の見どころについて映像を交えながら話すのだ。
プレゲームショーを行うことで、試合開始ギリギリに来ていた人に余裕を持って来場してもらうことが狙いにある。
さらに、札幌ドームの観客層では50〜60代の女性が多く、普段からインターネットに触れていない人もいる。
そうした人たちに対し、人気の応援グッズや選手弁当などをこの時間に紹介し、五感でエンターテインメントを楽しんでもらう工夫がなされている。
選手の特徴を可視化したCM
演出する側として、試合中に最も楽しんでほしいのは選手のプレーだ。
選手個々の見どころをわかりやすく伝えるため、開幕前に制作されたCMが興味深かった。投球中の大谷翔平やスイングしている中田翔の体の一部が、CG映像で突如ロボット化されるのだ。
小崎氏がその意図を説明する。
「それぞれの選手の特徴を可視化することで、見る側はどの選手の何がすごいかをつかみやすいと思いました。それに映像を見て、『何であんなに太い腕に何か機械をつけているんだ』と楽しむことができれば、それがファンや家族、SNSでのコミュニケーションにつながっていきます」
スマホで調べて会話のネタに
2015年から2つに増設されたスコアボードもコミュニケーションを深める手段として活用されている。
たとえばデータでは打率、本塁打などなじみ深いものだけでなく、BABIPやIsoPなどセイバーメトリクスのマニアックな数値も表示される。データ好きな人に満足してほしいというこの取り組みには賛否両論あるものの、球団側にはもう1つの狙いがある。
「何のデータかわからなくても、隣の人に聞いたり、すぐにスマホで調べたりできます。事実として、それでコミュニケーションが生まれているんですよ。そうやってスタジアムの一体感を高めることができました」
電光掲示板に映し出されるデータ項目は多岐にわたる。BABIPはインプレー打率、IsoPは長打力を表す数値
大谷翔平は西武のエース・岸孝之を得意としている。好成績を見ると期待感がグッと高まる
紅白歌合戦を参考に演出2部制
球場に来るさまざまなファン層を満足させるため、試合演出は2部制で行われる。その傾向が顕著になるのは週末の試合だ。
参考にしたのは紅白歌合戦だった。1部には子どもが楽しめるようなアイドル、妖怪ウォッチなどアニメキャラクターが登場し、2部から歌で聴かせるベテラン演歌歌手や大物シンガーが中心になって盛り上げていく。
ファイターズではこの演出を参考に、試合の1回から4回くらいまではマスコットがパフォーマンスを実施。選手が子どもにメッセージを伝えるムービーが流される。
その狙いは、子どもを楽しませることだけではない。
「子どもが野球に飽きたら遊具に連れていくこともできますが、そうすると試合を見たかったパパやママが席を離れないといけません。そういうことを考えての演出です」
試合が佳境に向かう5回になると、応援モードを強めていく。勝利した試合後には選手が宇宙船に乗ってヒーローインタビューに登場、ハイファイブボーイズという応援パフォーマンスユニットがCO2をぶちまけるなど、演出はクライマックスに到達する。
宇宙船をイメージした舞台で選手たちはヒーローインタビューを受ける
ヒーローインタビュー後に選手たちが自撮りし、その写真がSNSに投稿される
演出で野球の楽しみ方を提案
一方、ロケーションとしてはスタンドだけでなく、球場内のコンコースや外のテラスが活用されている。
試合前にはテラスでファイターズガールやマスコットのショーが行われ、同時に球場内のコンコースでは専属DJのトークショーが流される。アミューズメントパークのように、さまざまなアトラクションで来場者を多角的に楽しませようとしているのだ。
選手やファイターズガールズ、応援パフォーマンスユニットのハイファイブボーイズたち
もちろん、エンターテインメントの中心には野球がある。ファンが最も見たいのは応援するチームの勝つ姿だ。
だが、勝敗はコントロールできない。だからこそ、営業サイドはそれ以外から楽しませることを考えるが、最後に行き着く先はチームだ。
「試合に負けたときにファンの方が『何しているんだ、この野郎』と思っても、演出やエンターテインメントをきっかけに『また応援してやろう』と思わせなければいけません。『今日はあのストライクが分岐点になった』というコアファンから拡大し、いろいろな楽しみ方をしてもらえるファンを増やしたいと思ってシンプルかつベタな演出に力を入れています」
試合後に開放されたグラウンドでファンとコミュニケーションするハイファイブボーイズ
チームの優勝を演出で後押し
ファイターズの試合演出を手掛けるのは自社職員から協力会社を含め、総勢100人以上。
彼らは「FIGHTERS NORTH STUDIO」という“チーム”を組み、そのロゴの入ったTシャツやパーカーを着用して「自分たちが一番のファイターズファン」という思いで動いている。そうした誇りが、演出のクオリティ追求につながるのだ。
彼らの思いの先には、チームの勝利がある。
「ファンを大事にするのはもちろん、選手たちが躍動して野球に取り組んで優勝するのが大前提です。それを後押しするために演出でやりたいのは、選手個々を僕らがキャッチアップしてカッコよく見せる。それをファンの方がとっつきやすいイメージに落として、チームを盛り上げていくことです」
選手とファンがハイタッチで勝利の喜びを共有する
エンターテインメントビジネスを行っている各球団が、野球以外でもファンを楽しませるのは当然のことだ。
だが、いくら企画や演出で盛り上げても、チームが負け続けるとファンの足は遠のいてしまう。チームの勝敗はコントロールできない一方、球団職員がそれぞれの持ち場からチームの勝利を追求する姿勢を見せることが、プロスポーツビジネスにおける真のプロフェッショナルといえるのではないだろうか。
今季、ファイターズは最大11.5ゲーム差あった首位ソフトバンクとの差をグイグイ縮め、現実的に逆転可能なところまで詰めてきた。そうしたチームは、スタッフの演出やファンの声援に本当の意味で後押しされている。
(写真:©HOKKAIDO NIPPON-HAM FIGHTERS)

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