2026/05/24 NEW
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写真:野口航志

トミー・ジョン手術からの復帰を目指す宇田川優希が、少しずつ前へ進んでいる。今季はファームで実戦復帰を果たし、ここまで公式戦3試合に登板。初登板から最速156キロを計測するなど、数字だけを見れば順調な回復ぶりを示している。ただ、本人の中では、まだ「戻った」と言い切れる感覚ではない。日本一、WBC、その後の怪我と不調、そして手術。大きな振れ幅を経験してきた右腕はいま、かつての自分を追いかけるのではなく、“新しい自分”を作ろうとしている。(取材・文:野口航志)
プロフィール:宇田川優希
1998年生まれ、埼玉県出身。八潮南高から仙台大に進み、2020年育成選手ドラフト3位でオリックス・バファローズに入団。プロ2年目の7月に支配下契約を果たし、2023年にはWBC日本代表に選出された。2025年3月にはトミー・ジョン手術を受け、今季からは再び育成選手としてスタートを切っている。
「戻ることはない」を受け入れて…“発想の転換”がもたらした変化

オリックス・バファローズの宇田川優希【写真:野口航志】
直近の登板でも、宇田川は150キロ台を連発した。順調に登板数を重ねているが、宇田川自身は今の状況には全く満足していないようだ。
「実際スピードで言うと最速は156キロ出ましたが、いまはまだ良かった時の感覚には程遠いですね。手術前に投げてた時よりは感覚は良くないです」
数字は出ている。それでも、自分が思っている感覚にはまだほど遠い。そこで宇田川は、考え方を大きく変えたという。
「いい感覚を取り戻すっていう考えもあったんですけど、試合で投げてみて、完全にいい時の感覚に戻ることはないなっていうのがわかったので。自分の中で受け入れて、その中でも新しい感覚を見つけるってことに考えを変えたら、気持ち的にも楽になって、楽しくなりました。こうしたら指にかかるなとか、回転数が変わるとか、新しい自分というか」
かつての自分に戻ることを目指すのではなく、今の体と向き合いながら新しい“シン・宇田川”を作っていく。その発想の転換が、宇田川を前向きにしている。
「怪我したあとは、今までやってこなかったことをやり始めて、リハビリとかトレーニングも変わりました。復帰戦でも(ストレートは)155・6キロとか出ましたし、やってきたことが間違いじゃなかったなっていう自信になっています。トレーニング方法も変わったので、新しい自分になりつつあるなっていう実感はありますね。考え方もそうですし色々変わりました」
一方で、実戦復帰後はまだ確認作業の意味合いも強い。
「練習試合も含めてまだ5試合ですし、完全に納得いく球が投げられるかと言ったら、まだですね。球速は出ていますけど、自分の中で納得できてないっていうか、まだまだだなっていう気持ちもあります。」
今は結果を求めつつ確かめる段階だ。
「振り返ってみたら、手術が決まって手術するまでが1番気持ち的にはしんどかったなっていうのはあります」
宇田川にとって、苦しかったのは手術後よりも、むしろ手術を決めるまでの時間だった。
「(2025年の)キャンプ中に、手術をするっていう話になって、精密検査を受けに行った時も、迷いがずっとありました。前の年も全然活躍できなかった分、今年は活躍したいという気持ちでオフを迎えていたので、色々迷いがありました」
そんな中で背中を押したのが、岸田監督の言葉だった。
岸田監督の言葉とトレーナーとの出会い…宇田川を変えた“転機”

オリックス・バファローズの宇田川優希【写真:野口航志】
「岸田監督と話をして、『お前の武器はなんだ?』って聞かれたときに、やっぱり今の肘(の状態)じゃ投げられないと思って。もう1年死ぬ気で頑張って、またそういう真っすぐやフォークを投げられるようにして、また戻ってきたいという気持ちになれました」
投手コーチ時代から信頼している岸田監督だからこそ、話をして改めて自分の武器に気付かされた。
「僕はコースに投げるコントロールとか持ってるわけじゃないですし、緩急をつけて抑えるとかでもないです。ストレートとフォークが僕の武器だと思ってるんで。その武器がなくなった時に何があるんだろうって思うので、そこを取り戻したい、また投げられるようにしたいっていう気持ちが強くなりました。手術をするという気持ちはそこで腹が括れました」
手術が決まってからは、前を向くしかないと気持ちも切り替わった。
「僕自身が変わろうとも思えたきっかけが、溝端さん」
リハビリの中で大きな存在となったのが、二人三脚で歩んできたトレーナーの溝端さんだった。出会ったのは2024年の夏ごろ。肩の痛みがなかなか改善しなかった時期だった。
「2023年の4月末ぐらいから、肩がずっと痛くて。その年の日本シリーズが終わったら、リハビリに専念したんですけど、何をしても治らなかったんです。僕的には怖いっていうか、不安がある中で、1年間野球をやらなくちゃいけないっていうのがあって。ちょっとずつ良くはなっても、投げたらまた痛いっていうのがあって、2024年はずっとその繰り返しでした」
そこで、体の使い方を根本から見直すことになった。
「若い頃は、勢いでやっている部分っていうのはあって、球速が出てたらいいとか、抑えたらいいみたいな感じでやってきた結果、トミー・ジョンになったというか。肘とか良くなっても、(怪我する前と)何も変わってなかったら、また怪我するだけだし、怪我しないフォームだったりとか、体作りだったりとかをしなくちゃいけないよねって言ってくれて」
治療だけではなく、再発しない体づくりを一緒に取り組んでいたようだ。
「最初は半信半疑な部分もあったんですけど、一緒に(トレーニングを)やっていくうちに、確かに体が変わっていくのがわかるようになって、今は一緒に信じて2人でやっているって感じですね」
また、トレーニングメニューもバランスを考えたものに変わった。
「今までだったら、重いウエイトをひたすら持って鍛えてたんですけど、それじゃやっぱり可動域だったりとか、そういうのが足りないということが分かりました。ウエイトもしつつ、スピード系のトレーニングだったり、動作系のトレーニング、エクササイズもすることが大事だなと。柔軟性と筋肉を両方しっかりつけてバランスよくやるようになりました」。
リハビリ自体は順調に進んだが、実戦に戻ってからはまた別の難しさも感じている。
「試合で1イニング投げただけで、朝ベッドから起きられないぐらい疲れたり。連投したり毎日投げるのが僕らの仕事なんですけど、ブランクっていうのを感じましたね。1試合155、156キロとか投げていたら、次の日には投げられなかったりしたので気持ち的にしんどいところはあります」
ただ、その壁も少しずつ越えつつあるという。
「体が強くなった」感じ始めた“復帰への手応え”

オリックス・バファローズの宇田川優希【写真:産経新聞社】
「最近は試合で投げた翌日でも、だるさもないですし、疲労とかも抜けやすくなったので、体が強くなったっていうのは感じています。試合で投げだしてからどんどん気づけるっていうか、徐々に(体が)戻ってきてるなっていうのは感じています」
不安を取り除き、完全復帰を目指していく段階だ。
「今はとりあえず、連投チェックとかをクリアしていかないといけないです。試合勘も取り戻さないといけないので、まだやることは色々あるなっていう感じです」
それでも、一軍で投げる姿を見せたい思いは強い。
「僕的には今すぐにっていうのは無理ですけど、(シーズンの)後半でも僕が戻れるタイミングがあるのなら、しっかり投げて活躍したいなっていう気持ちはあります」
もっとも、復帰までの時間を支えたのはトレーナーとの二人三脚だけではなかった。宇田川には、同じ痛みや不安を共有できる仲間たちもいた。リハビリ組の仲間たちとの情報共有の中でも支えられてきた。同じようにトミー・ジョン手術を受けた小木田敦也、吉田輝星、東山玲士などの選手たちと食事に行き、それぞれの進捗や痛み、感覚を話し合ってきた。
「やっぱり目指すべき場所は一緒ですし。リハビリ期間を一緒にいろんな話とかしながらやってましたし、『今、何ヶ月経ってこんな感じ』とか、『こういう痛みは出るのはしょうがないよ』とか、いろんな話をしました」
その先にあるのは、みんなで一軍に戻ることだ。
「“トミー・ジョン会”と言ってご飯とか行くんですけど、それを一軍でできたらいいねっていう話もしてますし、みんなで一軍でできたらなっていう風には思ってます」
さらに宇田川には、もう一つ強い思いがある。
「同級生3人が揃ったことがないんですよ」再び目指す“一軍共演”
それは、2022年の日本一を知る同級生、山﨑颯一郎、小木田と、もう一度一軍で並び立つことだ。
「2023年から一軍で同級生3人が揃ったことがないんですよ。また同級生で活躍したいねっていう話はしてるので、早く僕も一軍に上がれるようになって、また高め合えればいいなって思ってます」
チームが3連覇を成し遂げた中でブレイクを果たした同級生たちの存在は、宇田川にとって特別なのだろう。ともに一軍で結果を残し、優勝の喜びも知っているからこそ、再び同じ場所で戦いたい思いは強い。苦しい時間をそれぞれが過ごしてきた今だからこそ、もう一度そろってマウンドに立てた時の意味は、あの頃とはまた違った大きさを持つはずだ。
「あの頃みたいにみんなで活躍して、戦えればやっぱり楽しいと思うので。そこは目指しています」
最後にファンへの思いを尋ねた。
「トミー・ジョン手術をして、活躍できなくなって、それでも『戻ってこいよ』とか、『無理すんな』とか、こういう時に、ファンのみなさんが応援してくれてるっていうのがすごい嬉しいですし、そういうファンのみなさんのためにも本当に頑張りたいなって」
登板する際には、大きな拍手と声援が起こる。その応援はしっかりと宇田川に届いている。
「あの声援があったんで、しっかり戻れましたっていうところを見せたいですね。一軍で頑張ってる姿を見せたいなっていう気持ちはあります」
156キロは、復活の証ではなく通過点なのだろう。宇田川優希はいま、かつての自分を追うのではなく、新しい自分を作りながら一軍への道を進んでいる。
(取材・文・写真:野口航志)
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「お前の武器はなんだ?」オリックス・宇田川優希の背中を押した岸田監督の言葉。一軍復帰に向けて模索する“新しい自分”【コラム】
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