それは、あの頃と変わらない、心待ちにしていた本を丁寧にめくっていくような瞬間だった。
【写真を見る】中日・髙橋宏斗が清々しい拍手 初完封の広島・栗林とベンチ前で交わした言葉 試合後、名城大の元後輩に届いた“1通のLINE”
「先発ピッチャーは栗林」
場内アナウンスがこだまする。一塁ライン際で背番号20が深々とお辞儀をする。スタジアムを真っ赤に彩ったファンが見守り、拍手を送る。
3月29日。広島東洋カープ・栗林良吏投手(29)が、まっさらなマウンドに上がった。
私にとっては懐かしい光景でもあった。というのも私は栗林投手の名城大学野球部の1つ後輩にあたり、先発のマウンドに立つ姿を何度も目にしてきたから。
ふだんは、CBCテレビで放送しているドラゴンズの応援番組「サンデードラゴンズ」のディレクターをしている。今回は少しだけわがままを言って、先輩の記事を書かせていただく。
なぜなら栗林さんは、そんなに野球もうまくないただの大学生だった私を気に掛けてくれる優しい心の持ち主だから。そしてそれは、今も変わっていなかったから。
■失意のドラフト指名漏れ… 真っ先に口にしたのは
大学生の時から注目されていた栗林さん。同じ投手で1つ下の私は気が付けば一緒に過ごす時間が長くなっていた。リーグ戦中の木曜日は食事に連れて行ってもらい、そのまま銭湯に行くのが日課だった。
「大事なルーティンだから!」栗林さんはそう言ってくれていたものの、選手としてのレベルの差は歴然。自分なんかでいいのかなぁと思うこともしばしば。
そんな優しい栗林さんから笑顔が消えた日がある。2018年10月25日、運命のドラフト会議。指名間違いなし!と思っていたが、栗林さんの名前が呼ばれることはなかった。
「これだけ会見場に報道陣など、たくさんの人が集まってくれたのに申し訳ない」
本当はすごく悔しいはずなのに。こんなコメントを残せる人だった。
その週末の試合、何かがプツンと切れたように栗林さんの投球は乱れ、名城大学での野球生活に幕を下ろした。
■忘れられない“あの笑顔”
あれから2年の時が流れ、トヨタ自動車に進んだ栗林さんは再びドラフトで指名されるのを待った。私はこの時、社会人1年目のディレクターとして栗林さんの取材に行くことになった。

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