
2025年シーズン、最下位から一転しパ・リーグ2連覇、そして日本一奪還を遂げた福岡ソフトバンクホークス。その躍進の裏には、選手の技術や戦術だけでは語りきれない、ある人物の存在があったと言います。そのキーマンとは、伴元裕メンタルパフォーマンスコーチ。彼の存在がチームにどのような影響をもたらしたのか、メンタルパフォーマンスコーチの役割とホークスの強さの秘密に迫りました。

福岡ソフトバンクホークス メンタルパフォーマンスコーチ
伴 元裕(ばん・もとひろ)
7年間の商社勤務を経て渡米し、デンバー大学大学院スポーツ&パフォーマンス心理学修士課程を修了。2017年に帰国後、OWN PEAKを創業。野球やサッカーをはじめとするトップアスリートやプロチームに対し、本来の力を発揮するためのメンタル支援を行ってきた。2024年秋より福岡ソフトバンクホークスのメンタルパフォーマンスコーチに就任。
野球はメンタルが影響するスポーツ

普段プロ野球を見ているとき、一挙手一投足の瞬間的なプレーにどうしても目が行きがちですよね。ところが、伴さんは、メンタルがパフォーマンスに大きく影響する「メンタルスポーツ」であると語ります。それは野球という競技の特性にあるそうです。
伴さん 「去年からホークスに関わって、メンタル面で野球って大変だなって思うのが大きく3つぐらいあるんですけど、まずは、打者は3割打てば一流と言われるように、ミスが起きやすいというか、失敗が前提のスポーツで、思い通りにいかない場面が普通に起こるんですね。どんなバッターでも10回に7回は失敗しますし、ピッチャーも抑えたい場面で打たれたり。そうなった時に、気持ちが揺さぶられやすいのが一つです。もう一つは、プレーをしている時間に比べて、準備や待つ時間が非常に長いということです。回が終わった後の交代とか、バッターが交代する間とか、一つ一つの間があるんですね。考えごとをする時間が意外に長いんです。人って考えると、どうしても結果が気になったり、過去の失敗やネガティブなことを考えてしまうので、自信を保ち続けることの難しさがあると思います。でも、考えることが多い中で、勝ち負けが決まるプレーというのは一瞬です。160km/hに近い球が来て、考える余地がない中で動かなきゃいけないんですね。プレーの直前まで考えて準備して、プレーになった瞬間には一つのことに全集中しなければならないという、本当に頭の中が忙しい。これが野球という競技の特徴であり、難しさであり、面白さということを、昨年選手を見ていて感じたことですね。
メンタルパフォーマンスコーチっていう役割は、メンタル面の支援をしながら選手一人一人がパフォーマンスを発揮できるよう支援していくのが大きな役割です。特に私が関わっているのは1軍の選手たちなんですけど、もうすでに本当にすばらしい能力を持った人たちの集まりなんですね。143試合ある中で、どうやって大事な場面で、選手が自身の持てる力を高い水準で発揮できるか。それをメンタル面で支援をするのが私の役割になります。普段から選手たちとコミュニケーションを取る中で、一人一人がどういうことを考えているのか、何に集中していると良いパフォーマンスが出せるのかというところを、会話を通じて明確にして、試合中はその場面に対してちゃんと集中ができるような心理状態を作っていけることを大切にしています」

2025年シーズンの大逆転劇の裏側にあったベンチの空気の変化

2025年のシーズンは、ホークスにとって苦難の1年でした。開幕から3連敗を喫すると、4月には12年ぶりとなる単独最下位に。そこから一転してパ・リーグを連覇、さらに日本一奪還へと駆け上がったその裏側には、ベンチの空気の変化があったと言います。
ベンチの中が、ミスを引きずらない空気に変わった
2025年5月1日にはホークスの借金(勝利数ー敗戦数の差)が最大7にまで膨らんだ翌日、川瀬晃選手のサヨナラ打で逆転勝利を収め、チームの勢いが一変。その翌日、5月3日から伴さんがメンタルパフォーマンスコーチとしてベンチ入りが認められました。
伴さん 「僕の役割は、選手が良いパフォーマンスを出せるような空気、選手自身が集中できる状態になることを支援することなので、選手の顔色や状態を見ながら、そこに意識を向け続けていましたね。ベンチに入っていない時期も、ベンチ裏で、選手が集中して試合に入っていけるようなコミュニケーションを行っていたので、特に関わり方の変化はないんですけど、ベンチに入るようになったことで、プレーの合間にパッと僕と話をして、集中することが即時的にできるようになったこととか、チーム全体の空気感を整えていくことも僕の役割だと思っていた中で、全体に対して声かけができるようになったことも大きかったと思います。
結果としてエラーや失点をしたとしても、その中にもすばらしいプレーとか、準備とか、評価されるべき取り組みっていっぱいあるんです。空振りをしたとしても、良いアプローチやアタックをしていたら『ナイスアタック!』って言えるでしょうし、やっていることはすばらしいよとみんなで確認し合う空気感を、とにかく5月の段階から作っていこうという話をしていました。5月の中旬ぐらいからは、凡退して帰ってきた選手たちにも『いいよいいよ』『ナイストライだよ』ってポジティブな声がかかるようになっていたので、ミスを引きずりにくいチームに変わってきていたかなと思います」

伴さんに響いた中村晃選手の言葉「自分の力を出し切ることに集中すること」
それから順調に成績を伸ばし、7月29日には初の首位に躍り出たホークス。しかし、シーズンも終盤に差し掛かり、優勝の2文字が視野に入ってきた頃、ある異変が起きたと語ります。

伴さん 「9月になった瞬間に、あと1カ月、2位の日ハム(北海道日本ハムファイターズ)との差を守りきれば優勝だということが浮かんでくるんですよ。そして、それまでほとんど負けていなかったオリックス(オリックス・バファローズ)に4連敗して、チームの空気が重くなった瞬間があったんです。僕はその空気をすごく感じていて、中村晃選手に『いまチーム全体の空気をこう感じているんだけど、どう思う?』って聞いてみたら、『これ結構重くなってますね、やばいです』と。『こういう時は、結果とか他のことに意識が向いちゃうものなんですよ。でもそういう時こそ、この日、どれだけ自分がヘトヘトになるまで力を出し切ったと思えるか、やるべきことをやれるか。そこに集中することが僕たちにやれる最大のことなんだ』と言ってくれたんですね。彼がこの1年を通してそれをずっとやってきているからこそ、その言葉がすごく重く感じられて感動したんです。
これは選手全体に伝えなきゃいけないと思って、中村晃選手の言葉として試合後にチーム全体に連絡したところ、翌朝には選手たちからも『本当そうですよね』とかすごく反応があって、そこから苦手としていた楽天(東北楽天ゴールデンイーグルス)のビジター戦でも連勝して、そのまま優勝できて。こういう経緯もあって、やっぱり中村晃という選手の存在の大きさだったり、彼の考え方の深さ、言行一致一致している行動とともに、本当に感動したんですよね。そこはすごく記憶に残っています。これは、中村晃選手だけじゃなく、今宮健太選手、柳田悠岐選手、みんな言葉で引っ張るというよりは行動で示してくれるタイプで、こういう選手たちが多いことがホークスの強さの理由だなって、昨年後半は特に思わされましたね。彼らの言葉は、やっぱり若手の選手たちにはものすごく響くので、それを伝達していくのも僕の役割の一つなので、できるだけ伝えていきたいと思いますね」

選手一人一人の性格に合わせて変わるコミュニケーションの仕方
さらに伴さんは、100試合を超えてマスクをかぶったキャッチャーの海野選手の成長ぶりが記憶に残っていると語ります。
伴さん 「キャッチャーって、なかなか裏の努力が表に出にくいポジションなんですね。2024年まで主力だったキャッチャーがチームを抜けて、海野選手が100試合を超えてマスクをかぶるという状況になりました。1年を通じて、すごく頼もしくなった、成長したなって思わせられた選手です。
バッテリーミーティングで、試合直前に対戦相手に対する戦略を整理する時間があって、キャッチャーが準備した戦略をピッチャーにプレゼンをして、それを擦り合わせていくという作業をするんです。最初の頃は、自分が準備したことをどうにかピッチャーに伝えようとしていたんですよ。彼は本当に努力家で、膨大な量の情報を整理して準備できる選手なんですけど、その情報をピッチャーに対しても結構たくさん伝えていたんですね。ただ、情報が多いと、ピッチャーが気持ちの中で不安になっていくことに本人が気づき始めて。このピッチャーは言ってあげた方が安心するなとか、むしろ一切出さなくて大丈夫だなとか、相手に合わせて情報を共有するということができるようになっていったんです。だから、このピッチャーには情報を入れない方がいいなと判断したら、『もう言うことないよ、お前の持っているもの出せばいいよ』って言って終わることもあって。それってすごく勇気がいることなんですけど、彼の中では確証がある。シーズン後半には実際の試合でも、相手の打者のことを見ながら確信を持ってリードをしていくところが見えてきて、すごく面白いなって思って見ていました。
これは昨年の後半にピッチャーが躍進してきたきっかけの一つだったんじゃないかなと思っています。僕はその裏側をずっと見させてもらっていたので、すごく感動しました。相手のことを配慮しながら、自分が調べてきた情報と照らし合わせて、それを試合中に相手の出方に合わせて調整していくという、本当に頼もしいと思うし、成長したなと感じた選手ですね」

伴さんも選手の経験や状態に応じて関わり方を変えていると話します。
伴さん 「ベテランの選手たちのように、既にある程度考え方が確立している選手の場合は、僕が介入せずに良いパフォーマンスを出せるのであれば、それに越したことはないんですよね。だから、無駄な関わり方はとにかくしません。自分の中で集中するものを決めて、それを実際に打席の中でできる能力は、やっぱり年齢が上がるほどできるようになっていくんです。
そういった選手には無駄なお節介を焼かないのがすごく重要だと思ってるんですけど、若手の選手たちはメンタルが磨かれていない選手が多いんですね。寄り添って会話をすることも多くなってきますし、そのコミュニケーションスタイルはいろいろあります。ストイックな選手で、ダメなところに気付ける選手ほど、できているところに意識を向けさせたりとか、選手の性格に合わせて、コミュニケーションの仕方は選手一人一人で変わってきますね」
メンタルは先天的な “性格” ではなく、後天的に身につけられる “スキル”

こうした現場での関わりの中で、伴さんが一貫して伝えているのが「メンタルはスキルである」という考え方です。
伴さん 「ホークスの選手たちもそうだったんですけど、メンタル弱いですとか強いですとか、生まれ持った性格のように言う選手も多くいたんです。でも、『僕、そういう性格なんで』みたいになってしまうと、もうおしまいというか、トレーニングのやりようがないですよね。そうじゃなくて、メンタルって力を発揮できる能力のことで、後天的に磨くことのできるスキルなんだ、具体的には集中力なんだと。打席に立った時に、打てるか打てないかという結果に注意を向けて集中していくのか、相手のピッチャーのリリースのタイミングに合わせて始動することに集中していくのかでは、全然反応の仕方が変わってくるんです。今この瞬間の自分のプレーの内容、具体的な行動に集中を向けること、これはスキルなんだ、技術なんだということをずっと選手たちに最初から伝えています。選手一人一人と、何に集中していくと良いパフォーマンスが出せるのかを見極めて、それをどんな時でもやれるような技術をトレーニングしていこうと。その一つのやり方として、会話を通じてセットして、実行して、振り返りをして、というサイクルを一人一人と回し続けています」
集中力は “保つもの” ではなく “戻すもの”
奇しくも、伴さんに取材した日が、伴さんが書き下ろした書籍『集中力革命 ブレても力を発揮するメンタルの技術』の発売日当日でした。書籍の内容について伺いました。

伴さん 「去年の春から、60人の選手たちを対象にして、何に集中していると良いパフォーマンスが出せるのかというのをずっと分析してきたんです。60人が60人、結果に意識を向けている時は良いパフォーマンスが出ていないって言っているんですよ。プレーの中身、今その瞬間に起こっている行動とかに集中できている時に、いいパフォーマンスが出ているっていうことが分かって、これは一切誘導なしで選手たちが出してきてくれた結果なんですよね。
もちろん、練習の時から勝つために何をするかという仕事も、勝つためにどうするかという発想は100%大事なんですけど、結果とか未来のことではなくて、実際にプレーしている今この瞬間の具体的な行動に集中している時にパフォーマンスが出せているということを選手たちが見せてくれたんですよね。結果を出したければ、そのプレーの瞬間は結果のことを考えるなと。これを選手たちが昨年1年間の中で証明してくれました。この本は、その内容を世の中の方にも伝わる形にまとめたもので、基本的には選手たちから教えてもらったことを、ビジネスだったり受験だったり、野球に限らず日常の中で使える形にまとめています」

さらに伴さんは、集中力そのものの捉え方についても見直す必要があると語ります。
伴さん 「集中力というと“保つもの”って捉えられがちなんですけど、“保つもの”ではなくて“戻すもの”なんです。皆さん、集中している状態を保ち続けることを“集中”と思っているかもしれませんが、人の集中ってそれるんですよ。そもそも人間という生き物は、ずっと集中し続けることはできません。近藤選手ですら『今、集中がそれたな』って言ったりしますし。集中がそれたことに気づいたら、また自分が集中すべき状態に戻すことができればいいんです。そうすれば良いパフォーマンスが出やすくなっていきます。それることが当たり前だと思っていれば、『今それたな』って気づいてまた戻すことができる。この“戻す”までの時間を短くできるんですよね。この戻せる能力のことを“集中力”だと考えていて、集中力の捉え方を変えることを目的として、この本を書いています」
ディフェンシブにならず、力を出し切ることに集中することが2026年のカギ
2026年は、ソフトバンクホークスになってから初のリーグ3連覇、そして日本一連覇を目指すシーズンです。チャレンジャーの立場だった昨年に比べ、今年は守るものができたことによる難しさがあると語ります。
伴さん 「シーズンが始まると変わってくるかもしれないですけど、日常的に3連覇という言葉を使う機会はあまりなくて、ホークスの選手たちは春のキャンプを見ていても、結果は当然目指しながらも、自分がやれることに集中できていると思います。結果や未来のことに意識を向けるのではなく、今やるべきことや自分のコンディションを開幕までに高めていく。そこにしっかり集中して、選手一人一人が抜かりなく準備しているので、すごく誇らしく思います。
昨年は『日本一奪還』という形で、忘れ物を取りに行くというチャレンジャーの立場で臨めたことが、すごくプラスだったと思います。メンタルの観点でも、後半戦の集中力にもつながっていたと思います。ただ今年は、勝って当たり前という空気の中で、昨年使っていた『奪還』という言葉は使えない。守るものができたとき、人は積極的に行きにくくなるので、その難しさに必ず直面すると思っています。そういう状況になったときに、昨年、中村晃選手が言ってくれた『勝てる勝てないに関係なく、自分たちがどれだけ毎日力を出し切れるか。結果よりも、自分の力をとにかく出していく』という方向に、8月や9月のタイミングで向けていれば、日本一連覇の可能性も高まっていくと思います。ディフェンシブにならずに、チャンピオンとして守りに入らずに、その日その日に力を出し切ることを目指していく。これが本当にメンタル面でのチャレンジだと思うので、その役割をしっかり担っていきたいと思っています」

(掲載日:2026年4月1日)
文:ソフトバンクニュース編集部

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