2024年6月に赴任したNTTデータ東北・茂木孝之社長が、着任後最初の夏に目の当たりにしたのは東北の“祭り”の熱気だった。地域の人々をつなげる祭りに「通じるものがある」と思い浮かんだのが、東北におけるスポーツの存在だった。茂木社長、長く東北に在住し経営企画部長を務める横尾怜氏、DXO担当部長の佐々木光宏氏の3人に、東北という土地でスポーツが果たす役割と、コミュニティプラットフォーム『GOATUS(ゴータス)』への期待、そしてNTTデータ東北がIT企業として挑むスポーツビジネスの方向性について聞いた。
(インタビュー・文=大塚一樹、写真提供=楽天野球団、ゼビオアリーナ仙台)
「地域に生きる。」東北に根づく祭りの風景
「特にねぶた祭りなんかは“跳ねる”って言い方をするんですが、大きなねぶたに目がいきがちですが、その足元で夜通し踊り続けている人たちのうちに秘めたパワーがすごかったのに驚きました」
2024年6月にNTTデータ東北に赴任した茂木孝之社長が、着任後最初の夏に目にしたのは、寡黙なイメージの東北の人たちの意外な姿だった。
青森のねぶた、秋田の竿燈、盛岡のさんさ踊り、山形の花笠、福島のわらじ、仙台の七夕。東北六魂祭にも代表される各地の祭りは、短い夏を彩る伝統行事として各地域に根づいてきた。
「私たち、NTTデータ東北の企業理念は、『地域に生きる、活きていく。』なんですね。弊社が得意とするITを活かして地域のさまざまな問題を解決する、多様なニーズに応える中で新たな可能性を模索する。そのためにはまず、東北地域に近いところに私たちが入っていかなければいけない」
地域に生きるとは、ただその土地にオフィスを構えることではない。その土地の人々が何に熱を注ぎ、何を誇りにしているか……。“祭り”とともに、茂木社長の頭に浮かんだのが、「スポーツ」だった。
「東北では、スポーツもお祭りと同じく、日々の暮らしの延長線上にありながら、人々の心の距離を一瞬で縮める特別な存在なんですよね」
本州の約3割を占める広大な東北地方を一つにするもの。同じ瞬間、感動を共有できるのがスポーツだ。厳しい冬に耐え、春を待ち望む東北の人々は、試合の勝ち負け以上に、自分たちの地域のチームが目標に向かって挑戦していることそのものを真に応援している。
母親が福島出身だという東北と縁が浅からぬ茂木社長は、東北六県を自分の足で回る中で、この地で暮らし、この地で働くことの手触りを少しずつ実感していったという。
中でも茂木社長が「地域の人々を強く結びつけている」と感じたのが、震災を経て東北の象徴的存在になった東北楽天ゴールデンイーグルスの存在だった。
震災と楽天イーグルス日本一が生んだ「東北」という一体感
「一つのきっかけではあったと思いますし、私自身、東北の人間であることを強く感じた出来事でした」
大学と出向時代を除くと約40年間、東北で暮らしてきた横尾怜経営企画部長は、2011年3月に起きた東日本大震災をこう振り返る。
「社員のほとんどは東北出身ですが、社員間でも、『震災のとき、私はあそこにいました』という話になるし、採用面接に来る学生たちとも震災についての記憶の話になります」
発災から15年が経った今も消えない記憶。
「東北に住んでいる人間にとって、東日本大震災の経験は自分のアイデンティティに深く関わっています。私は会社のアイデンティティにも大きく関わっていると思っています」
横尾氏が続けて話してくれたのが、2013年の東北楽天ゴールデンイーグルスの日本一だった。
「優勝の瞬間はテレビで見たんですけど、優勝パレードには『絶対行かなきゃ』と。震災当時はまだ妻のおなかの中にいた2歳の息子を肩車して選手たちに感謝とお礼を伝えたのをよく覚えています」
約21万4000人が集まったと言われる優勝パレードをきっかけに、熱心な楽天イーグルスファンになったという横尾親子は、今も足しげくスタジアムに通う。中学生にして、学生時代バスケットボールに打ち込んだ横尾氏と同じ190センチ近い長身に育った息子は、楽天イーグルスの本拠地のすぐ隣にある中学校で野球部に所属しているという。
「東北」の名前を冠したプロ野球チームが、震災へのさまざまな思いを引き受けて、優勝という最高の結果を見せてくれた。田中将大投手の雨中の熱投と『あと一つ』の大合唱、地鳴りのような大声援は、日本のスポーツ史に残る名シーンの一つだ。
「甲子園で自分の県が負けても隣の県が勝てば喜ぶみたいな、ほかの地方にはない穏やかな連帯感はもともとありましたけど、誰もが心に傷を負った出来事があった後ということもあって、あの時は特別でしたね」
震災に打ちひしがれた東北地方。そして復興に向かう人々を励まし、緩やかな結びつきを別次元のものに変えたのが野球というスポーツだった。

茂木社長にも、あの感動的な場面と楽天イーグルスの特別な影響力、スポーツの力で東北のみならず日本中が感動したことは当然念頭にあった。
実は、茂木社長は明治大学スキー部の出身。競技スキーに真剣に取り組んできたバックグラウンドは、横尾氏に相通ずるところがあった。
「NTTという公共性の高い名前を冠している企業の中で、特定のチームとのかかわりがどうかというのは常にあった。ただ‟東北”楽天イーグルスなら、広範囲な地域への貢献、連帯を示す意味でも合理的理由があると思っていました。そこで、個人的にはスポーツに明るい社長の就任をチャンスととらえていたんです」
横尾氏の言葉通り、NTTデータ東北は2025年から楽天イーグルスのオフィシャルスポンサーとしての契約を締結している。プロ野球で唯一「東北」という地域名を冠する楽天イーグルスは、東北六県をまたいだスポンサードが行える利点があった。2013年を機に、楽天イーグルスの「心のホームタウン」は宮城県だけでなく、確実に東北六県に広がっている。
「ちょうど創立20年を機に、企業理念を刷新したんです。その中で生まれてきた『地域に生きる、活きていく。』という新たなミッションとの親和性も高かった。弊社が得意とするITを活かして地域のさまざまな問題を解決する、多様なニーズに応える中で新たな可能性を模索する。そのためにはまず、東北地域に近いところに私たちが入っていかなければいけない」
茂木社長の言葉にもあるように、昨年9月に行われた冠協賛デー『地域に生きる、活きていく。NTTデータ東北Day』は、東北におけるNTTデータ東北のプレゼンスを高めるだけでなく、社員がより東北の名の元に地域に密着していく決意表明にもなった。茂木社長が始球式を務めたこの試合には社員とその家族が詰めかけ、バックヤードの見学や選手との交流も体験した。前述の横尾親子に至っては、Rakuten.FM TOHOKUの番組に出演し、その熱い思いを語ったという。

「ド直球の熱意」スポーツを“支える”という視点
並行して、スポーツの力を地域に活かす試みが、グループ会社のNTTデータ関西でも始まっていた。ファンがアスリートやチームを直接支援できるスポーツコミュニティプラットフォーム『GOATUS(ゴータス)』がそのプロジェクトだった。
『GOATUS』プロジェクトを知った、NTTデータ東北のDXO地方創生・CX変革担当部長の佐々木光宏氏は、すぐに情報を取り寄せ、社内への上申に動いた。
この佐々木氏もまた、茂木社長、横尾氏と同様かそれ以上の“スポーツ人材”だった。プロサッカークラブのユースチーム出身であり、大学サッカーの強豪・中央大学に進んだ佐々木氏は、幼少期からスポーツの力に助けられてきた一方で、その厳しい現実も目にしてきた。
「私の学年からプロに上がった同期もいましたが、結果が出なければすぐに契約が打ち切られてしまう世界です。高校生の時にプロのサテライトリーグの試合に出させてもらって、オファーもあったのですが、提示された報酬額は想像以上に厳しいものでした」
日本では人気スポーツのサッカーでさえ「夢か生活か」という競技人生を送る若者は少なくない。
「いつかITとスポーツの掛け合わせで仕事に携わりたいと思っていました。単なるお金稼ぎでもなく、社会貢献だけでもない。『GOATUS』は、スポーツを“支える”という視点で多くの可能性を持っていると思ったんです」
佐々木氏にとって、『GOATUS』まさに待ち望んだものだった。
「サッカーで言えば、曲がるシュートじゃなくて、ストレートな強シュート。もう最初の提案から熱意は伝わってきましたね」
佐々木氏のアプローチを受けた茂木社長は、まっすぐな眼差しで『GOATUS』プロジェクト参入を説く佐々木氏の熱さに並々ならぬものを感じたという。
「東北地域の産官学金との結びつきが強い当社だからこそ、新たにIT×スポーツの領域で地域のハブになるというチャレンジは意義があることではないか」
こうして、NTTデータ東北も、『GOATUS』プロジェクトにジョインすることが決まった。

突然のDMから「施設スポンサー」という新たな試み
スポーツを知り、愛情を注いできた3人が、それぞれの思いを持ち自社が地域で生きていくための道としてスポーツを活用する。こうした姿勢は、新たな化学反応を生みつつある。
スポーツとの接点を増やすことに前向きだった茂木社長のもとに思わぬ話が舞い込んだ。
「もう一つ面白い話があって、Bリーグ・仙台89ERSのホームアリーナでもある『ゼビオアリーナ仙台』さんからDMで『施設スポンサーに興味はありませんか』というお問い合わせをいただいたんですね。普段なら見過ごしてしまうところを、たまたま開いて『これ面白そうじゃない?』と話を聞くことになった。結果として、施設へのスポンサーをやらせてもらっています」
茂木社長へのDMを機に関わった『ゼビオアリーナ仙台』は、Bリーグの試合の他にも、東北の象徴的なアスリートである羽生結弦さんのアイスショーやコンサートを行うこともある。施設全体をスポンサードすることで、競技、さらには地域の大学、専門学校などの入学・卒業式など地域の人々の節目となるイベントにも寄り添える。この偶然の出会いもスポーツをきっかけに、地域との親和性を高めていく方針に適っていたというわけだ。

6つの強さ、6つの県。東北とともに生き、活きていく。
楽天イーグルスとの交流には、もう一つの物語がある。
実は、茂木社長と楽天イーグルスの森井誠之社長はともに1974年7月生まれ。明治大学政治経済学部出身というプロフィールまで同じだったのだ。
「これはご縁しかないと思いました」
茂木社長はNTTデータ東北の催しで特別講演をしてくれた森井社長の言葉が忘れられないと言う。
「森井社長が語ったのが、楽天イーグルスが掲げる『東北の6つの強さ』だったんですね。曰く、団結する力、耐え忍ぶ力、受け入れる力、巻き込む力、思いやる力、底力。これは本当の東北という土地柄、東北人の人柄をよくあらわしているなと思います。我々の仕事もまったく一緒で、一社で完結する仕事はほとんどない。自治体、企業、地域の皆様と団結し、簡単に答えが出ないところにも耐え忍びながら、多様な意見を受け入れ、周囲を巻き込んで最後までやりきる力が求められます。楽天イーグルスさんは応援する対象であると同時に、企業としての在り方を学ばせていただける存在です」
東北の6つの強さは、広大な土地に散らばる6つの県のそれぞれに、少しずつ違う濃淡で宿っている。
「スポーツは東北にとって欠かせない日常であると同時に、地域の力を写し出す鏡のような存在ではないかと思っているんです。その力とともに、我々も地域の特性を活かし、盛り上げていければ」
茂木社長の言葉通り、NTTデータ東北は東北で培われた伝統や文化を大切に、人々とともに地域に“生き”、その熱を新たな力に変えて“活きていく”。
<了>
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[PROFILE]
茂木孝之(もぎ・たかし)
NTTデータ東北 代表取締役社長。1997年、NTTデータ入社。金融分野を中心に、メガバンク向け営業企画、事業戦略、企画部長、バンキング企画統括部長などを歴任。金融IT領域の営業・戦略企画を担当し、2023年より営業企画推進部長。2024年6月、NTTデータ東北 代表取締役社長に就任。
[PROFILE]
横尾怜(よこお・さとし)
NTTデータ東北 経営企画部長。電機・音響メーカで社会人をスタートさせた後、2007年にNTTデータ東北入社。スタッフ全般、法人営業、親会社出向も経て現職に至る。大学時代と親会社出向時期を除き、約40年間は東北在住。趣味は子どもとのプロ野球観戦、地元球団の楽天イーグルスを応援。
[PROFILE]
佐々木光宏(ささき・みつひろ)
NTTデータ東北 DXO(デジタルトランスフォーメーションオフィス)地方創生・CX変革担当 担当部長。2003年にNTTドコモ入社。米国留学や本社販売部で代理店戦略部門の事業計画策定に携わった後、宮城県仙台市で起業。経営コンサルティングや教育事業を手掛ける。事業売却後、地場企業の建設会社や人材派遣会社で経営に携わり、2024年にNTTデータ東北に入社。同年5月より現職。

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