楽天で得た「出力」の差と、忘れぬ感謝

 南国の穏やかな空気に、柔らかな笑顔が溶け込んでいた。沖縄・読谷で行われている中日2軍の春季キャンプ。今季、楽天から古巣に帰ってきた阿部寿樹内野手は、ベテランらしい落ち着いた佇まいでグラウンドに立っていた。パ・リーグでこれまでとの“違い”を肌で感じ、自らのスタイルをアップデート。36歳が再出発を切った。

 東北の地で研鑽を積んだ「マスター」が、4年ぶりにドラゴンズブルーのユニホームに袖を通した。背番号は「5」から「48」へと変わったが「また野球ができる喜びを、改めて感じさせていただいています」。その言葉には、多くの経験を重ねてきた男の深い実感がこもっていた。

 打撃に話題が及ぶと、その眼差しにはパ・リーグでの経験から導き出した“確信”が宿る。衝撃を受けたのは、セ・パ両リーグの明確な「出力」の差だった。

「パ・リーグは、バッターが初球からとにかく振ってくる。パワーピッチャーも多いし、それに負けないように自分もスイングするというイメージを持っていました」

 楽天移籍前までは、球をじっくり見極めつつ「上手く打つ」という感覚を大事にしていたが、今は違う。「追い込まれるとなかなか自分のスイングはできない。早いカウントでいかに強い打球で仕掛けるか。本当に勉強になりましたね」。追い込まれてからも勝負できる粘り強さに、「初球から強い打球を叩き出す」という攻撃的な意識が加わった。30代後半を迎えてなお、プレースタイルを柔軟にアップデートさせる貪欲さがそこにはあった。

楽天へのトレード発表直後に参加したファンフェスタでの記憶

 そんな阿部が、月日を経ても大切に持ち続けていた記憶がある。トレード発表直後に参加した2022年オフの「ファンフェスタ」の光景だ。

「(移籍するにもかかわらず)たくさんのファンの方々が自分のタオルを持って来てくださって、ああ、すごい応援されていたんだなと。あの光景はすごく嬉しかった」。一度離れたからこそ実感したファンの温かさが、再起を期する背中を後押ししている。

 かつて送り出してくれた、そして再び迎え入れてくれた中日ファンへ、結果で恩返しする。パ・リーグで磨いた「仕掛ける勇気」と、熟成された“マスター”の技術。読谷の地で静かに、そして確実に研ぎ澄まされているその一打が、バンテリンドームに歓喜を呼び戻す。

(木村竜也 / Tatsuya Kimura)


NPBHUB.COM | The Fanbase of Nippon Baseball & Nippon Professional Baseball