連載:監督として生きる

川浪康太郎

2026/01/24

(最終更新:2026/01/24)

#監督として生きる

#東北学院大学

試合中に笑顔を見せる東北学院大学の星孝典監督(すべて撮影・川浪康太郎)

「逃げない」先にあるものとは――。今回の連載「監督として生きる」は、東北学院大学硬式野球部の星孝典監督(43)です。読売ジャイアンツと埼玉西武ライオンズで捕手として計12年間プレーしたのち、プロ野球でコーチを務め、2023年から母校の監督に就任。人間形成に重きを置いた指導に取り組みつつ、昨年の仙台六大学野球秋季リーグ戦で7年ぶりの準優勝を果たすなど着実に結果を残しています。3回連載の後編は、選手に「忍耐力」を求めることの是非についてです。

東北学院大・星孝典監督(上)「ノリと勢い」で強敵撃破、母校を蘇らせた“共通言語”
東北学院大・星孝典監督(中)就任直後に退部者続出、それでも貫く「人として」の指導
成長のチャンスを奪いかねない「逃げてもいいよ」

「今の学生は忍耐力が足りないと感じます。『逃げてもいいよ』とよく聞きますし、もちろん逃げてもいい時もありますが、逃げずに踏ん張ったからこそ得るものは絶対にあると思います。人生は自分の思い通りにはいかない。その時に逃げるのではなく、自分が変わったり、違う方法を考えたりすることでうまくいくケースもある」

星監督は「パワハラを肯定するわけでは決してありません」と前置きした上で、「忍耐力」の必要性を語る。選手たちにはよく、「注意されるのと攻撃されるのは別。考え方や価値観が違う相手に意見をぶつけられると『は?』と思うだろうけど、違う方向から物事を捉えるチャンスだから、反射的に拒否するのではなく『そういう考え方もあるか』と受け止めよう」と伝えているという。

「ピッチングコーディネーター」の金刃憲人さん(左)と練習を見つめる

「逃げてもいいよ」を真に受け、自分を肯定しすぎると、「成長するチャンス」を失う可能性がある。例えば、「素振りを100本やれ」と言われた選手が「意味がない」と否定的に捉えて逃げれば、成長はそこで止まってしまう。意味を考えながら逃げずに100本振れば、飛躍のきっかけをつかめるかもしれない。星監督は「いろいろなものを失った代償として、確固たる自信がつく。何かを犠牲にしなければ自信は得られない」とも口にする。

「自分の物差しだけでやらずして『無駄だ』と判断するのではなく、無駄だと思ってもやる忍耐力や無駄だと思わない変換能力を身につけるべき。逃げたいけど夢や目標をどうしても達成したい時、自分本位に考えて甘えるのではなく、やる意味を考えて踏ん張ることも大切です」。プロ野球選手になる夢を実現させた星監督の言葉には説得力がある。

「理不尽」の意味を考えた就任2年目のキャンプ

監督就任2年目のキャンプ期間中、忍耐力について考えさせられる出来事があった。

あるきっかけで選手たちを注意した際、その学年が「理不尽に耐える」を目標に掲げると提案してきた。「当てつけだ」と感じた星監督は「理不尽」という言葉の意味を調べ直し、「理不尽かどうかは道徳に反しているか、道理にかなっているかという観点で判断するものであって、自分の思い通りにならないことを理不尽と言うのではない。自分が思っていることの反対のことを言われたから理不尽と捉えるのは違う」と説き伏せた。

自分の物差しだけで判断するのではなく「忍耐力や変換能力を身につけるべき」と語る

もちろん世間的に見て理不尽なことからは逃げるべきだが、夢や目標を達成したいのであれば、個人的な感情で「理不尽」と決めつけるべきではない。それに気づいて以降、選手との接し方をより深く考えるようになった。

とはいえ、頭ごなしに叱るのは時代にそぐわない。「伝え方」については日々、試行錯誤を繰り返している。気づくまで我慢したり、他の選手を経由して伝えたり、自ら行動で示して気づかせたり……。あらゆる方法を試している最中だ。星監督は「まだまだ今の学生の気質に100%対応できていない。一人ひとりに合った伝え方を模索しています」と話す。

昨年のラストゲーム後、3年生に伝えた思い

今年は正捕手の田村虎河(4年、駒大苫小牧)、エースの堀川大成(4年、東日本国際大昌平)ら前チームの核を担った4年生が抜ける。すでにリーグ戦で経験を積んでいる1、2年生が多い一方、間もなく最上級生になる3年生はベンチ入りしていたメンバーが少なく、一つの懸念材料と言える。

前チームの中核を担った田村虎河(右)と堀川大成(左)

星監督は「3年生が『監督はリクルートしてきた選手(1、2年生)を使うよな』とふて腐れた時点で、彼らにチャンスはなくなると思います」と表情を引き締める。3年生は星監督の就任を知らずに入部を決めた最後の代。星監督が自ら声をかけた1、2年生を起用することを「理不尽」と捉えて逃げてしまえば、昨年のような最上級生中心のチームは成り立たない。

だからこそ、昨年の明治神宮野球大会東北地区大学野球代表決定戦で八戸学院大学に敗れた直後、星監督はベンチで真っ先に3年生に向けてメッセージを送った。「最上級生が踏ん張って、示しをつけるチームでないと、強くならない。3年生には一番期待している」。その言葉を聞いて涙する選手もいた。彼らが逃げることなく、自覚を持って戦ってくれると信じている。

「また一段と強くなると思う。どんなチームになるか楽しみです」と星監督。昨秋は東北福祉大学と仙台大学から勝ち点を奪うも東北大学に連敗を喫し、届きかけた優勝を逃しただけに、周囲からの期待値はさらに高まる。忍耐力のある「勝てる組織」を作る挑戦は続く。

八戸学院大学に敗れた昨秋、ベンチで選手たちに思いを伝えた

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