連載:監督として生きる

川浪康太郎

2026/01/23

(最終更新:2026/01/23)

#東北学院大学

#監督として生きる

味方の攻撃中に選手へ声をかける東北学院大学の星孝典監督(プロ時代を除きすべて撮影・川浪康太郎)

野球に「規律」は必要か――。今回の連載「監督として生きる」は、東北学院大学硬式野球部の星孝典監督(43)です。読売ジャイアンツと埼玉西武ライオンズで捕手として計12年間プレーしたのち、プロ野球でコーチを務め、2023年から母校の監督に就任。「星イズム」は徐々に浸透してきていますが、当初は退部者続出という事態に直面しました。3回連載の中編では当時を振り返りつつ、教育的観点から野球を語ってもらっています。

東北学院大・星孝典監督(上)「ノリと勢い」で強敵撃破、母校を蘇らせた“共通言語”
「人生は片道切符」退部する選手を引き留めなかったワケ

星監督は就任当初から一貫して、「学生たちには社会に出て通用する人間になってほしい」と口にしている。プロ野球の世界に選手、コーチとして長年身を置いたが、最優先事項は技術向上ではなく人間形成。就任したばかりの頃、選手たちには真っ先にあいさつや礼儀の重要性を説いた。

東北学院大は星監督が母校に戻る前の2年間、大人の指導者が不在だった。学生だけで作る自由な雰囲気を好み、「規律」を重視する監督の出現に顔を曇らせる選手は少なくなかった。やがて退部を申し出る選手が続出した。

「彼らの立場に寄り添うのならば、自分の目で見て『入ろう』と思った野球部が変わってしまったので、『違うな』『やりづらいな』となるのは仕方ないこと。彼らは悪くありません。退部を申し出た選手は必ず話をしてから送り出しましたが、退部を止めることはほとんどしていない。人生は片道切符なので、その時にやりたいことをやるべきだと思います」

アンパイアに選手の交代を告げる

面談の際は「望んでいた環境でなくなってしまって申し訳ない」と頭を下げつつ、「辞めた後に何をしたいか」は必ず聞いた。「野球部以外の学生生活でしか得られないことはたくさんあるはずなので、最終的に、卒業式前後に『あの時辞めてよかったです』と言いに来てほしいんです」。短期間であれ、一度は預かった選手である以上、決断を後悔してほしくはなかった。

スタンドの光景に変化、浸透しつつある「星イズム」

残った選手には根気強く、最初に話したことを伝え続けた。星監督は「気持ちが表れるようなあいさつは、まだまだできていません」と評価するが、選手たちは確かな変化を見せている。

特に変わったのが応援の姿勢だ。かつては「全員で応援に行こう」と声をかけても、無断で欠席する選手がいた。「試合を見てもおもしろくないので」。そんな返答が来ることもあった。

昨年の仙台六大学野球秋季リーグ戦では、毎試合大勢の部員がスタンドで声をからし、グラウンド外でも貢献しようと一つになる光景が際立った。星監督は「試合に出ているのは自分たちの代表だという意識が芽生えてきたのか……。明確な理由は分かりませんが、いずれにせよ(昨年の)秋の応援は本当に力になりました」と目を細める。

星監督が見初めた新入生も加わってからは、チームとして結果を残せるようにもなってきた。昨秋は近年「2強」の牙城(がじょう)を築いてきた東北福祉大学、仙台大学から勝ち点を奪取し、7年ぶりの準優勝を達成。人間形成、技術向上ともに一定の手応えを得ている。

選手たちは試合に出ている出ていないに関係なく、一つになる姿勢を見せた

アプローチが異なるプロ野球と大学野球の指導

「大学では野球をほとんど教えていません。『人として』ということが大部分を占めています。彼らの人生に役立つものを与えると言ったら偉そうですが、少しは役に立ちたい。野球というスポーツを大学まで続けるのは、かなりのエネルギーが必要なんです。せっかく大学野球をやるのであれば、野球を通じて学べることがたくさんあると伝えなければいけないと思っています」

西武と東北楽天ゴールデンイーグルスでコーチをしていた頃は、選手へのアプローチの仕方が今とは違っていた。「ユニホームを着ているうちは、その選手がどうすれば来年も契約を結んでチャンスを得て、1軍でレギュラーをつかめるかということだけを考えてアプローチしていました」。生き残りをかけるプロ野球の世界ではむしろ、野球に特化した指導が求められる。

星監督自身もプロ野球を目指し、その夢をかなえ、生き抜いてきた一人。だが、「根本的に自分が正解だとは思っていない」という。

読売ジャイアンツ時代の星孝典監督、厳しいプロの世界で12年間の選手生活を全うした(撮影・朝日新聞社)

「10人いれば10通りの正解がある。やりたいことをできた人生で満足していますが、物心ついた時からボールで遊んで、野球に時間の大半を費やしてきたわけですから、全く違うことにチャレンジする人生はどうだったのかと思うこともあります」。大学までで競技に区切りをつける選手がほとんどの大学野球だからこそ、「元プロ」の肩書は捨てて「人として」接している。

星監督は「野球のない社会に出ていないので、『おそらく』でしか言えないのは私の弱み」だとも自覚している。一方、「私の口から出るものや、しぐさから出るものは野球で培ってきたもの」であることは確かな事実。その上で、「グラウンドの中で学んだことはきっと社会に役立つ」と自信を持って言える。

朝から晩までグラウンドに立ち、チームのことを考える日々だ

「社会に通じる人間」を育てる監督としての人生

プロ野球を経て母校の監督になった今、午前7時から午後10時半までグラウンドにいるのが当たり前の日々。ほぼ毎日、野球や硬式野球部のことを考えている。それでも、すべての教え子に伝え切るには時間が足りない。

「強要するのではなく、伝えたいことをコツコツと伝えて、選手が自分で意味を見いだして主体性を持って取り組む。それが身についた時に社会に通じる人間になる」と星監督。グラウンドで「人」を育てる人生もまた、一つの正解だ。

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後編は24日に公開予定です。

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