伏兵の延長戦のひと振りで決着した、今年の日本シリーズ。しかし殊勲者はその日の試合前、「焦っていた」という。募る焦りを霧散させたのは、ある男のアドバイスだった。5年ぶりに日本一に輝いた最強ホークスの知られざる物語。
発売中のNumber1131号に掲載の[優勝ドキュメント]福岡ソフトバンクホークス「苦境を打開した言葉の力」より内容を一部抜粋してお届けします。
ソフトバンク野村勇の雄叫び
闇夜のなかで眠りこける大阪城の天守閣に届かんばかりの絶叫だった。
「最後、俺がホームラン打って、決めてやったぜぇぇぇぇぇぇ!!」
ソフトバンクの祝勝会。大阪市で行われた宴がはじまると、だれもがシャンパンのしぶきにまみれ、やがて中締めになった。指名された野村勇はゴーグル姿で登壇すると、甲高い調子で勝ち鬨をあげた。
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その2時間ほど前、甲子園では阪神との日本シリーズ第5戦を4時間9分の熱戦の末に制し、小久保裕紀監督が宙を舞った。5年ぶり12度目の日本一。万感の思いをかみしめるように指揮官は言った。
「昨年のこともあったので喜びも倍ぐらいのものを感じました。昨年、ここで敗れた喪失感を1年間、持ちつづけていました」
昨季はリーグを独走優勝し、クライマックスシリーズ(CS)も制しながら、日本シリーズでは連勝後に4連敗。シーズン3位だったDeNAの後塵を拝していた。
小久保監督監督も驚いた伏兵の一撃
監督2年目の小久保は1年前の雪辱を果たした安堵からか、4連勝で一気に日本一を決めた一撃を振り返り、おどけた。
「今日のイサミのホームランにはビックリしました」
第5戦は2点を追う8回に柳田悠岐の2ランで追いつき、延長戦に入った。11回、先頭で打席に向かう野村は胸中で呟いた。
高めに入ってくるボールを強く叩く――。
ただその一心だった。10回からマウンドに上がった阪神のエース村上頌樹からは、6月の交流戦でも2安打を放ち、苦手意識はない。2-2からの5球目だ。148kmの速球を強振すると、ライナーで虎党がひしめく右翼席に飛び込んだ。
「静まり返って、どうなってんねんって」
打った本人が絶句した。
こんなフィナーレをだれが想像しただろう。小久保が「イサミなんて代走と守備固めの17番目の野手やったのに」と明かすように、春先はバックアップ要員に過ぎなかった。ところが故障者続出をチャンスとして自己最多の126試合に出場。12本塁打を放ってレギュラー格に成長した男が、この土壇場で阪神に引導を渡した。
「最高だよ! イサミ‼︎」
ダイヤモンドを一周して戻ってくると、「最高だよ! イサミ!!」と声を掛けられた。目の前には、メンタルパフォーマンスコーチの伴元裕がいた。今年、野村がだれよりも会話を交わしてきた人である。

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