半世紀以上が過ぎても、その金字塔は燦々と輝き続ける。不動の四番サード、長嶋茂雄は空前絶後の9年連続日本一を成し遂げたチームに、いったい何をもたらしたの──。彼と同じフィールドで戦った往年の選手たちを訪ねると、“いかにも”な逸話と、意外な見立てを明かしてくれた。
 発売中のNumber1124号に掲載の[歴史的偉業の背景]1965-73 V9を支えた「体感10割」より内容を一部抜粋してお届けします。

ミスターは「僕のイメージでは打率10割」

「プロ野球選手というのは結果がすべて。ホームランにしても打点にしても、王(貞治)さん、張本(勲)さんをはじめ、長嶋(茂雄)さんよりも数字を残している選手は何人もいます。それでもミスターがこれだけ人気なのはどうしてだと思いますか?」

 1968年にプロ入りし、V4からV9までレフトのレギュラーとして長嶋のプレーを間近に見てきた高田繁。彼に「V9時代の長嶋茂雄について伺いたい」と告げると、逆に質問された。高田の答えはこうだ。

「それはね、ファンはもちろんチームメイトが“頼む、ここで打ってくれ!”という場面で、100%打ってくれたからですよ」

ADVERTISEMENT

 データを調べるまでもなく「100%打ってくれた」事実はない。それでも、迷いのない口調で高田は続ける。

「もちろん、そんなはずはないんだよ。でも、本当にみんなの期待を裏切らないバッターだった。天覧試合、オールスター、日本シリーズと、ビッグゲームになればなるほど確実に結果を残している。僕のイメージでは打率10割なんですよ。“バカじゃないか?”って思われるかもしれないけど、それぐらい勝負強かったんだから」

 その姿は、熱烈なジャイアンツファンが「オレが見ていたら長嶋は必ず打つんだよ」と無邪気に語っているようだった。

「何を言ってるの、僕はファンの人たちよりもっと間近で見ているんだよ。“絶対勝ちたい!”というときに、長嶋さんは必ず打ってくれるんだから」

 身振りを交えて高田が力説する。チームメイトから絶大な信頼を寄せられる勝負強さこそ、長嶋の最大の持ち味だった。

「何をやっても、何を言っても、光り輝いている。長嶋さんのいるところはそこだけポンと明るくなる。それなのに、こんなことを言ったら失礼だけど、グラウンドを離れたら普段は本当に面白い人なんですよ」

“長嶋茂雄”を演じている部分も

 ’36年に生を受けた長嶋と’45年生まれの高田の間には、9つもの年齢差がある。それでも、高田にとってグラウンド外の長嶋は「面白い人」だった。

「子どもを球場に置いたまま帰ってしまったとか、“車のキーがない”と言って大騒ぎしてみんなで探していたのに、“あっ、今日はハイヤーで来たんだった”って言ったとか、エピソードには事欠かないからね。だけど僕は、すべてが長嶋さんの地だとは思わない。多少は“長嶋茂雄”を演じている部分もあったんじゃないのかな?」

【次ページ】 サインをよく見逃して罰金を命じられていた

NPBHUB.COM | The Fanbase of Nippon Baseball & Nippon Professional Baseball