長嶋茂雄と原辰徳。巨人軍の監督を継承した二人の師弟関係に迫る。Sports Graphic Number751号(2010年4月1日売)『人間交差点/長嶋茂雄×原辰徳「帝王学伝承の内幕 非情と愛情と」』を特別に無料公開します。【全3回の1回目/第2回、第3回も公開中】※表記などはすべて初出時のまま

わずか10秒で終わった儀式

 儀式は一瞬だった。

 2001年9月27日。東京ドームで行なわれた巨人対広島戦の試合後のことだった。

 この年の巨人は、残り3試合の時点で、ペナントを逃すことがほぼ確実となっていた。この日も乱打戦の末に10対11で敗れ、試合後の巨人のロッカールームには重い空気が流れていた。その中でヘッドコーチの原辰徳は、いつも通りに試合の反省と翌日の予定の確認のために監督室のドアをノックした。

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「どうぞッ!」

 甲高い声を受けて原はドアを開けた。正面のデスクに座っているのは背番号3のユニフォームを着た長嶋茂雄だった。

「失礼します」

 一礼して原が監督室に入ると、珍しく長嶋は椅子から立ち上がり、原の方に歩み寄ってきた。そして……いきなりだった。

「おめでとう。来年からキミが巨人の監督に決まったよ」

 そう言うとさっと右手を差し出した。

「エッ?」

 一瞬、何が何だか解らないという表情を見せた原の右手を、長嶋は力強く握り締めた。

「キミが来年は巨人の監督になるんだ」

 長嶋はもう一度、繰り返すと、今度は両手で原の右手をしっかりと握り締めた。

 長嶋から原へ。巨人監督の禅譲の儀式は、こうしてたった10秒ほどで終わった。

【次ページ】 長嶋が描いた“原監督”誕生の舞台裏

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