川浪康太郎

2025/05/22

(最終更新:2025/05/22)

#仙台六大学野球

#仙台大学

今春の仙台六大学リーグで力投する田中稜真(撮影・川浪康太郎)

プロ注目投手を複数擁する仙台大学に、またしてもスーパールーキーが現れた。最速152キロ右腕の田中稜真(1年、旭川実業)。今春の仙台六大学野球リーグ戦で早くも2勝を挙げ、ここまで12回3分の2を投げて防御率1.42をマークしている。3兄弟の末っ子で、2番目の兄・楓基は千葉ロッテマリーンズでプレーする投手。稜真は高校時代から150キロ台を連発し、ドラフトの有力候補と目されていたが、楓基のある「質問」がきっかけで大学進学を選択した。

兄の質問に自信を持って答えられなかった”3要素”

「今、プロの世界に来て、1年目から活躍する自信がある?」

高校野球を終えた後、両親と2人の兄を交えて進路に関する「家族会議」を重ねた。当初はプロ志望届を提出する意志が固かったが、ある日、電話で参加した楓基に質問された際、言葉に詰まった。「1年目からは難しい。勝負は2、3年目になるかな」。熟考の末、そう答えを絞り出した。

楓基は2021年のドラフトでロッテから育成1位指名を受け、高卒でプロ入り。3年で支配下登録を勝ち取れなかったため一度戦力外通告を受け、今季育成で再契約を結んだ。「プロは厳しい世界だとか、そういう話を聞いたわけではありません。ただ、プロを経験している楓基の言葉はやっぱり一番響きました。重みが違うというか」。支配下登録を目指して努力する兄の問いかけに、ハッとさせられた。

兄・楓基は千葉ロッテマリーンズの育成選手としてプレーしている(撮影・平田瑛美)

「プロは3年で結果を残せなければクビになる。2年目から勝負し始めるくらいなら、大学4年間で武器を身につけて1年目から活躍できるようにしたい」。考えが変わり、大学進学に心が傾いた。

「1年目から活躍する自信」を持てなかったのはなぜか。稜真は「体が細い」「ストレートの質が甘い」「勝負できる球がない」の3要素を挙げた。150キロ超の直球は完成形には程遠く、得意球のスライダーも「圧倒的な決め球」とは言えない。兄の問いかけを機に、確固たる武器がないことに気づいた。稜真は「楓基がいなかったら、間違いなくプロ志望届を出していました」と断言する。

4年間で自身の武器を手に入れるため、仙台大にやってきた(撮影・川浪康太郎)

「全部出し切れた」高校時代、150キロに到達

宮城県石巻市で生まれ、1歳ごろからは北海道旭川市で育った。2人の兄の影響で小学1年の頃に野球を始め、中学生になってから本格的に投手の練習に取り組んだ。中学3年時に楓基が旭川実業の「背番号1」を背負って投げる姿を見て、「単純にすごいし、かっこいい。3年間頑張って兄の行けなかった甲子園に行きたい」と思い立ち、旭川実業への進学を即決。高校では1年夏からベンチ入りを果たし、秋にはエースナンバーをつけた。

入学当初は体が細いわりに出力が高く、ケガに悩まされることが多かった。それでも、趣味でボディービルをしている1番上の兄に教わりながら、「食トレ」に励むと体が大きくなり、それに伴って球速が大幅に向上。3年時には150キロの大台を突破した。当時は「真っすぐが良くなれば変化球も良くなる」との考えで、ひたすら直球を磨くことに重きを置いていたという。

高校では常に楓基と比較された。試合で投げていない時期から楓基の話題に絡めた取材を受け、活躍しても記事の見出しには楓基の名前が躍った。嫌気がさしても不思議ではないが、稜真は「プレッシャーに感じたことはないですし、何もしなくても注目してもらえるのはありがたいと前向きに捉えていました」と振り返る。結果的に甲子園にはたどり着けなかったものの、「全部出し切れた」と言い切れるほど充実した3年間を送った。

旭川実業時代、真っすぐの最速を150キロ台に乗せた(撮影・佐々木洋輔)

「継投ノーヒットノーラン」で飾ったデビュー戦

大学は熱心に誘ってくれた仙台大を選んだ。投手育成に定評のある大学として以前から興味を持っており、プロ志望届提出の意向が強かった時期に唯一、練習会に参加したのが仙台大だった。その練習会で出会った今秋ドラフト候補の左腕・渡邉一生(4年、日本航空/BBCスカイホークス)からもらった「一緒に日本一を取ろうぜ」という言葉も、脳裏にこびりついていた。

仙台大では渡邉の「背番号14」を継承した。リーグ開幕戦でいきなりデビューを果たし、3回をパーフェクト投球。渡邉と160キロに迫る直球を持つ佐藤幻瑛(3年、柏木農)とともに「継投ノーヒットノーラン」を達成した。田中は試合後、「東北だけでなく日本が注目するようなリレーに混ぜてもらえた」と声を弾ませた。

「仙台大に来て良かったです。一生さんのチェンジアップ、幻瑛さんのまっすぐ。『良いピッチャーには武器がある』という自分の考えが間違いではなかったと、ここに来て確かめることができました」

1年目から出場機会を得て、チームにも貢献している(撮影・川浪康太郎)

渡邉は150キロ前後の直球を持つ一方、「お守り」と表現するチェンジアップを最大の武器にしている。田中も同じように「お守り」と呼べるような球を、4年間かけて追い求めるつもりだ。「現段階で勝負できる球はスライダーですが、遊び感覚で投げたフォークや、高校最後の夏に手応えのあったチェンジアップが良くなるかもしれないし、何があるか分からない。いろいろなことを試して、最終的には一生さんのような武器を手に入れたいです」と田中。「そのために大学に来たので」と語気を強めた。

兄は今「抜かないといけない存在」に

楓基は今季、ファームで好成績を残している。「やっぱりすごいピッチャーだと思いますし、比較した時には自分の方が劣る。抜かないといけない存在です」。唯一無二の武器を見つけ、3年後こそは、兄の問いに胸を張って「1年目から活躍できる」と答える。

プロの世界で「1年目から活躍できる」と自信を持てるように、仙台の地で鍛錬を積む(撮影・川浪康太郎)

NPBHUB.COM | The Fanbase of Nippon Baseball & Nippon Professional Baseball